第二章 知ってしまった事


印丁が帰ったのと時間をずらして教室に戻る。
時間があまりなかったのと話してたから、ペットボトルの中は半分程水が残っている。
いつも通りの喧騒に、印丁から聞いた幽霊番組の話がちらほら混じっていた。
「んばっ。」
「あぶね!」
うっかり若林の席の隣を通ってしまった、なんとか若林の拘束攻撃は避けたが、油断してたな。
若林は椅子ごと倒れこむ、そのまま動かなくなった。
「いけず・・・。」
「若林には春彦って言う彼氏がいるだろうがよ・・・。」
彼氏どうか知らないが、若林は春彦と春彦以外な男が近くにいたら春彦を優先する。
分かりやすく好きなのだろうな。
「はる・・・さいきんかまってくれない・・・。」
生徒会に振り回されてるからな、春彦。
「んー・・・。」
若林は持っていたペットボトルの蓋を開け、中の水をかぶった。
まて、なんでペットボトルなんて持ってる。
「それ俺の・・・。」
「ぷは、うん。」
水をかぶった若林は少し大きくなった、そして椅子を起こして、また机に突っ伏した。
そういや若林には幽霊とかはどう見えてるんだ、興味なさそうだけど。
「なぁ若林、お前は幽霊信じるか?」
返答はあまり期待してなかったが、若林は顔を上げてこっちを見た。
顔には相変わらず惰性の二文字が書いてある様に見えるが、興味はあるらしい。
「寝耳にウォーター・・・。」
「お前水吸うだろ。」
それだけ言って若林はまた机に突っ伏した、なんだったんだ。
「それって昨日の幽霊番組の事?」
若林は突っ伏したまま話す、いつもの体勢に戻ったから話が終わったかと思ったわ。
「まー・・・な、話聞いて興味湧いてな。」
嘘は言っていない、昨今の幽霊番組は幽霊スポットだパワースポットだと人を誘い込んで現地の魔物娘が美味しくいただく悪徳商売めいたモノばかりだ。
だが印丁の話を聞いたらそういうモノとは違うのでは、と考えたから多少は興味が湧いた。
「昨日のやつは正統派の幽霊番組だったよ、ほとんど観光地紹介みたいなやつじゃなくて。」
「そうなのか?そりゃまた珍しい。」
最近の幽霊番組はヤラセというか癒着だからな。
そのあたりでチャイムが鳴った、この休み時間ほとんど話してたな。
「場所が近いのも話題になってる原因じゃない?」
「意外と詳しいんだな、んじゃ俺も席に戻るわ。」
想像以上に詳しく話を聞けた、こいつそう言うの好きなのだろうか。
若林の場合は単純に珍しい物好き、だな。

〜〜〜〜〜

午後も過ぎ、帰りの時間、俺は今日何をするかぼんやりと考えていた。
今日のバイトはもう少し後だから多少は時間がある。
「藻城くん、少しいい?」
惚けていると田辺から声をかけられた。
何かあるのだろうか。
「何だ?」
「台車知らないかな?沙奈ちゃん運ばないといけないんだけど・・・。」
台車か、あったかな。
見覚えないな。
「悪いが、見てないな、誰か持って行ったんじゃないか?」
「うーん・・・そっか。」
「探すんなら手伝うぞ、バイトまで暇だしな。」
俺は荷物を持って立ち上がる、田辺は頷いた。
「そうしてくれると助かるよ。」
「じゃあまず心当たりはあるか?」
田辺は腕を組んで思考する、そして絞り出す様に呟く。
「校門まではあった、けどその後は・・・。」
「ともかく鮎川の所行ってみるか?」
田辺はもう一度頷いた、俺達は鮎川の所、つまり森姫の教室へ行く事になった。
森姫の教室は一階下の少し俺達の教室から教室二つ分離れた所にある。
「沙奈ちゃーん?いますかー?」
森姫達の教室の前に立ち、扉を開けた田辺は、そのまま固まった。
俺がその隣から教室の中を覗き込むと。
「げへへ・・・その馬鹿力もいつまで持つかな?」
「よくもあゆちゃんを・・・厳密に言うとあゆちゃんの胸部を・・・私は!変態なんかに!絶対!負けない!」
台車を持って校長に対峙している森姫とその側で顔を抑えてしくしくと泣いている鮎川がいた。
なんだこの状況は。
「沙奈・・・ちゃん?」
「台車、あったな・・・。」
あの校長、ついに生徒に手を出す様になったのか、前々からおかしいと思っていたが。
「ふははは!はは!はげっほ!げっほげっほ!」
校長は無理して威厳ある笑いをして、喉を詰まらせていた。
「え、えっと・・・大丈夫か?校長。」
「げほ!だ、大丈夫・・・。」
何がしたいんだ、この校長は。
頼むから暴れないでくれよ、ただでさえ森姫は流されやすいんだからよ。
「すー・・・はぁ・・・ともかく!そのでかい乳を揉ませろー!今日はペンしか握ってないんじゃー!」
これが校長という事実が一番に怖い部分だ。
特にこれが今日に限った事ではないのが二番目に怖い部分だな、よくあるのがな。
俺は教卓の中に対策として置いてあるトランプを手に取った。
「田辺ちょっと時間稼げ。」
「はい?」
校長は俺の行動に気
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