第一章 知らなくていい事


見下していた相手に、抜かれる。
それは中々に屈辱的なものだ。
多くの人間が俺と同じく、自分より要領の悪い相手、自分より幾分か始めるのが遅かった相手、もしくは自分がそのやり方を教えた相手。
それらにも、自分が負けると屈辱的なものだ、要するに悔しい。
人生は分からない、数ヶ月の入学試験の日、まだ高一のガキながらそんな事を俺は悟っていた。
こいつの所為で。

〜〜〜〜〜

俺は本を読んでいた、一応の弁明だがラノベなどの物ではない。
聞くもの聞くものに聞き返されるが、この本は言う程幼児向けのものではない。
魔物があまり広まっていなかった時代の産物、魔物娘『アリス』の名前の元になった本。
実の所この娘もアリスだったのではないだろうか、ならここまで愛を持った作品を作る理由も分かる。
いや、全て俺の想像、か。
「もーもちゃん!帰ろ!」
でかい、二重の意味ででかい物体がいきなり俺に抱きついてきた。
ただでさえ文化系だってのに、そんな奴を支える程の筋肉などない、俺はその抱きついてきた奴と一緒に倒れこんだ。
息できない、相当柔らかいモノが俺の顔を覆っている、ブラくらいつけろよ。
「やーん!ももちゃん大胆!」
あ、本当にやばい、キマる、これキマるわ。
ダイイングメッセージも残さない。
俺は目の前が真っ暗になった、倒れてからずっと真っ暗だったが。

〜〜〜〜〜

死ぬかと思った。
なんなんだよ、こいつは。
家に帰りながら、そう考える。
「ごめんってー!ももちゃん・・・。」
「お前のやんわりした思考で人一人の人生が終わるところだったぞ、女王だからで済まされるレベルじゃないっつーの。」
俺を殺しかけたこの女、隊長二メートル前の、このティターニアの女。
森姫 和、俺の後輩。
色々あって小さい頃に交流があった、いわゆる旧友みたいな感覚だったが向こうからしたら幼馴染のお兄さんだったらしい。
買いかぶりにも程がある。
「だけど、ももちゃんもこんな本読むんだね〜。」
カバンを片付けていた時興味を持たれたので本を貸してやった、俺の本だからな又貸しじゃないぞ。
「だからお前の頭の上にはいつもケサランパサランが舞ってんだよ、俺はエンタテインメントじゃなくて文学としてこの本読んでいる。」
申し遅れたが俺の名前は藻城 優、高二の文系のチビだ。
この前店でゴブリンとか言われた時は盛大に腹が立った、その程度にはチビだ。
俺の言葉に和は頭をパッパッと払う、すると一粒の毛玉が落ちてきた。
その毛玉を俺は受け取ってやる。
毛玉はふるふると震えていた、それをそっと飛ばしてやった。
「ほらな?」
「まーた真奈子がいたずらしたのかな。」
「だろうな、んじゃ俺こっちだから。」
俺は分かれ道を森姫とは別方向に行こうとした、が。
がし、と俺の肩が掴まれる、側からみたら俺は相当苛ついた顔をしていたのだろう。
道行く猫が逃げていった。
「離せ。」
「あのね、今日ね、両親・・・いないの。」
「嫌だ。」
多分、家まで付き合えと言いたいんだろ、それは嫌だ。
そこから泊まりを強要するのが魔物娘であるからだ。
だって魔物娘と二人きりで泊まりとか、絶対間違い起こされるだろ。
『起こされる』な、俺からじゃないんだよ。
「幼馴染のよしみで!お願い!夜の廊下コワイ!」
「だからって家に男連れ込む事あるか!他の女子誘え!」
全力で抵抗させてもらう、魔物区画に策無し、連れ無し、防具無しで行けばもれなく仲間入りだっての。
「え〜だって〜あの部屋まだ小物とか揃ってないし〜できればできるだけカワイくしてから呼びたいの〜。」
頬に手を当て気持ち悪い笑顔で告げる、なんだそりゃ理解できん。
「し!る!か!くそこんな時だけ無駄に強い握力使いやがって!」
「えー!何それ!酷い!」
ギリギリとより肩の圧迫が強まる。
お、おい、そろそろ、まずい。
「ちょ!?おま!?いてて!いてててて!は、外れる!」
「外れる?何・・・が。」
ゴキリ、そう変な音がなった。
そして俺はその後、叫ぶ。
「ぎゃぁぁだぁぁ!?」
「ごめーん!」
だから力加減考えろっての。

〜〜〜〜〜

「君、魔法と現代医学が合体してなければ、全治三週間だったよ。」
「ありがとうございます・・・。」
あの馬鹿野郎、脱臼しててもおかしくなかったぞこの野郎。
肩をゴキゴキと動かす、うん違和感。
「まぁ魔法医学でも一週間は運動しちゃいけないんだけどね、魔法で繋いだ所はどうしても馴染むのに時間かかるから。」
「分かりました、まぁ日常生活普通にできるだけ御の字です。」
最早顔馴染みの緊急外来の先生にお礼を言う。
緊急外来でもここまで完治に近い治療ができるとは、冷静に考えると凄いよな。
「うむ、くれぐれも・・・本当にくれぐれも森姫君にはよろしく伝えてくれ、本来緊急外来とは暇な仕事なのだ。」

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