「ただいま〜」
先月までは返事をする人が誰も居なかった部屋に声を掛ける。
二人の女の子が滑るようにして飛び付いてきた。
「おかえり〜〜。食事?お風呂?それともわ・た・し?」
「おかえりなさい。お食事?お風呂?それとも、わたし?」
二人の女の子が抱きつくようにして迎えてくれた。うん、少女というよりは女の子だ。
「ただいま。シロ、なにか楽しい事はあった?」
抱き付きながらわくわく顔で見上げるシロこと白薔薇の頭を撫でる。
「ただいま。クロ、そんなにしがみつかない。歩けないだろ?」
俺のお腹に顔を埋めるようにしてぎゅっと抱き付いているクロこと黒百合の頭を撫でる。
二人とも目を細めて嬉しそうだ。
「じゃぁご飯からにしようか」
「「わーい」」
俺がこの二人に出会ったのは先月の事。
ひょんな事からハイキングに参加する事になったのだ。天気も良さそうだし、それほど遠くもないし。何があっても所詮は都内の山だ。等と甘く考えていたのがイケナカッタらしい。
軽く声を掛けてから道から森に入りこみ、所用を済ませてから戻ってみると。
戻れなかった。
何で迷子? だって都内の山だよ? と思っても後の祭り。木々を透かして見ても人一人見えないし道もない。主催者や友人に電話を掛けようとしても薄情にも圏外表示。人口カバー率ってなんだ。
「落ち着け。山道に入ってまだ二時間も経ってないんだ。坂を下ればすぐに上り口だ」
自分にそう言い聞かせるように呟いて、草を掻き分けながら坂を下った。
やべえ。三十分余り山を下ったのに、家の屋根や道はおろか獣道らしき踏み分けられた跡も見当たらない。
落ち着こうとペットボトルの水で口を潤す。と、女の子の声が聞こえた気がした。更に水の音も。やあ助かった、どうやら川遊びに来ている人が居るみたいだ。と、声のする方へ足を進めた。
視界が開けると、そこは岩場で岩の陰から水が流れているのが目に入った。
渓流だ。
絶景だよ。
緑が滴るような向かいの山。さらに向こうにも山々が聳えていてなかなかに絵になる。興を削ぐ様な送電線みたいな人工物が視界に入らないのがなお良い。脇を流れる清流の音も心地よいのだが。
誰もいないよ。
呆然とするも、取り敢えず一休みする事にして、川原まで下ってからディパックを下ろして腰を下ろす。少し早いが昼食にする事にした。ディパックからコンビにオニギリを取り出す。良く食べるコンビニのオニギリでもこんな風景の中だと風味が良くなる気がするから不思議だ。
一つ目を食べ終わり、二つ目のオニギリへと手を伸ばしたら、小さな手に指を掴まれた。見下ろすと可愛らしい二人がそこに居た。墨汁を垂らしたかの様な癖の無い真っ直ぐな髪の女の子が漆黒の瞳で睨むように見上げ、オニギリに乗せた俺の指を掴んでいる。うわ小さい指だ。小人? もう一人は黒髪の子の袖を引っ張って止めようとしている様だった。真っ白な長い髪に血のように紅い双瞳。双子だろうか、お姫様カットの長い髪と瞳の色以外は着ている物も含めてそっくりだ。そして、言い方は変だが大きさ共にお人形さんが息をしいているみたいで、信じられない位に可愛いらしい。
「えーと。食べたい、のかな」
黒髪の子が上目つかいでコクコクと首肯する。うわぁい、なんて可愛いんだ。
そのまま、オニギリを持ち上げると黒髪の子は恨めしそうに俺を見上げた。あれ、いま妙に背が伸びなかったか? 怒り出す前にちゃっちゃと済ませてしまおう。何と言っても可愛い顔が台無しだ。オニギリのフィルムをささっと剥き海苔をシッカリと巻き付けて、二つに割る。半分を黒髪の子にもう半分を白髪の子に。
黒髪の子は嬉しそうに受け取り、白髪の子は黒髪の子の背後に隠れるように腰が引けつつもおずおずと手を伸ばしてきた。怖くて仕方ないのと欲しくて仕方ないのがせめぎあい、それでも欲しい気持ちが上回っているかの様だ。なんだろうなぁ、この可愛らしい生き物は。
ふと黒髪の子に目がいくと、
「うわぁ」
思わず大声を上げてしまった。なにしろあの可愛らしい黒髪の女の子が、自分の頭でさえ飲み込めそうな程の大きな口を開けていたのだから。俺の声に驚いたのか目を真ん丸にして俺を見つめている黒髪の女の子。ゆっくりと顎が閉じて元の顔立ちに戻る。白髪の子はよほど驚いたのか離れた石の影に飛び込んで俺を睨んでいた。
そして気がついた。彼女達の腰から下が足ではなく蛇のそれである事に。
蛇だ。蛇の魔物娘だ。始めて見るよ。
「ええと。こ、こ、こう食べるんだよ」
動揺を隠すように急いでオニギリのビニールを剥いて海苔を張り付ける。そして普段は食べないようなおちょぼ口でオニギリに噛みついて見せ、大きく口を動かして良く噛み、丸飲みしないで食べる事をアピールする。
丸
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