「俺はお腹が好いているだけなんだ」
などと、謎の台詞を口にしながら空腹を宥めつつ歩いていると、
『超健康黒蕎麦』
という暖簾に気がついた。
なんだよ、その『超健康』って。
それ以前に、ここに蕎麦屋なんて有ったっけ?
と、戸惑いながらもその店に入ってみる事にした。
「いらっしゃいませ」
店中から元気の良い挨拶が出迎えてくれる。
店員多いな。和服に前掛けってのが良いなぁ。
ってまてまて。ミニスカート丈の着物なんて物は反則だろ! 生足が実にけしからん。もっとやれ。ファミレス系エプロンドレスも捨てがたいが、ミニ丈の和服に前掛けの破壊力は負けてないぞ。
それに、客も多い。大繁盛だ。
「こちらのカウンター席へどうぞ。こちらがメニューです」
どれどれ。いろいろあるなぁ。
妙に『ぶっかけ』とか『はらみ』とか書かれているお品書きが多い気がする。
はっと閃いて店内を見回すも、店員にぶっかけをしてい客はいないし、そんなハズもないよな。
「・・・当たり前だよな」
あれ、なんだろう。なんかガッカリしている自分が居るぞ?
ぐぅ。
ああ、鳴くな腹の虫よ。とりあえず、何を頼もうか。
再びメニューに目を落とすも、目移りするというか心を鷲掴みにするような物に欠けるというか。
青い力蕎麦、赤い力蕎麦。何が青と赤なんだろう? でも餅は遠慮しようかな。
ハチ蕎麦。八蕎麦? 四六蕎麦でなく? 二八蕎麦って事か?
蟷螂蕎麦。え? 瞬間。蕎麦のドンブリの中央で鎌を構え立ち尽くす蟷螂の姿が脳裏に浮かんだ。無いだろ、これは。昆虫を入れちゃ駄目だよ。まてよ、イナゴの佃煮のように蟷螂の佃煮とか?
何か店名とかイロイロ台無しな気がする。
ふと、背後で聞こえた注文が気になった。
キツネのダブルにブッカケだと? キツネのトリプル?!
それは一体何だ? と見回したのだが、先程の店員が駆け寄ってきた。
「お決まりですか」
どうやらオーダーが決まったと勘違いをさせてしまったようだ。
さっきは気が回らなかったけど、結構可愛い娘だな。ショートボブでマルポチャ系でちょいと小柄。胸は少しばかり残念な所が特にイイ。重要な所だからもう一度言おう。胸が残念な所が実にイイ。
所で、そんなに『期待してます』視線はやめてください。何か変なことを口走りそうになりますから。
ええい、周囲のおまえら! キツネキツネとそんなにキツネが好きなのか? そうなら俺はっ
「タヌキ蕎麦ください」
そう言うと彼女はパッと嬉しそうな表情になった。
「関東風と関西風が出来ますが」
「関東で」
「情熱的なのと冷たいのが出来ますが」
「情熱的? 暖かいので」
あ、名札着けてる。十真子って言うのか。十真子さ・・・十真子ちゃんは少しぎこちない手付きで入力機械を操作した。
「ちょっと待って、えーと。掻揚げと、お稲荷・・・はキツネか。他のご飯ものは何か無いか、太巻き。うん、太巻きを追加で」
「追加でカキあげに太巻きですね。カキあげは先乗せにしますか、別皿にしますか」
「先乗せで」
はい。と言ってオーダーを復唱すると、十真子ちゃんは小走りで厨房へ向かって、同僚に叱られていた。
よし。これで待っていれば空腹は満たされる。蕎麦だけだと心もとないかな? とも思っていたが、シャリも追加できたし問題ないだろう。
店内を見回した。壁にお勧めのメニューが貼り出されている。ああ、こういう所にぐっとくるメニューが有ったりするんだよなぁ。
あ、A3程の紙に手作りっぽい蟷螂蕎麦のPOPが貼られている。蟷螂を擬人化したのか手が鎌の女の子にキャッチコピーで『無口だけど美味しいよ』と。すみません。意味が解りません。無口と美味いが如何に繋がるのかがまったく解りません。
ああ、絵の達者な人が居るんだな。女の子二人で『キツネダブル』とか三人で『キツネトリプル』とか言うのまで張られている。
「キツネ3Pブッカケ出ます」
ぶっ。さ、3Pだと!?
「続いてキツネ4P出ます」
4Pだと!?
うわ、でけえ。ドンブリからはみ出す程に大きなアゲが三枚とか四枚とか並べられているのが見えた。突き出ているアゲの角がキツネの耳の様だ。旨そうだ。肉厚で濃い色が付くほどに味の染みたアゲが三枚とか四枚とか。食いてぇ。めっさ食いてぇ。キツネオーダーが聞こえたから、ついつい天邪鬼にタヌキに逝ってしまったが、あれはあれで旨そうだなぁ。
「お客様? 温狸蕎麦のお客様?」
ん、わぁ、はい。十真子ちゃんがいつの間にか傍にいた。
「用意が出来ましたので、こちらへどうぞ」
え? タヌキ蕎麦ってカウンターで食えないものだっけ?
十真子ちゃんに連れられて奥に向かった。
「えーと。一人蕎麦?」
小さな部屋に一人分位のカウンターが設えてあり、椅子も一
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