騎士に教会まで連行された僕は教会の建物の一室、細い塔のようにそびえ立つ最上階の
部分に鎖に繋がれて閉じ込められた。腰に吊っていた剣などは没収させられたものの、基
本的には着の身着のままだ。
この状況は、正直に言って結構やばい。魔物と何かしらの関わりを持った人間は、即座
に処刑されることが教団の法で決まっている。
何かの拍子に事実がぽろりと発覚すれば、間違いなく僕は処刑だ。もしその場で気づか
れなくても、僕に対して相手側が何か感じ取れば、尋問拷問などの荒っぽい手を使ってこ
ないとも限らない。僕は嘘と隠し事が得意な方ではない。その手のプロが出てきた場合、
隠し通せる自信は皆無。
頭を抱えて、身を激しく捩った。三十秒ほどそうしてから、脱力してベッドに倒れ込む。
小さなため息をついて、周囲を見渡した。ここは、灰色の煉瓦で組まれた円形の部屋。
天井は高く、十メートルほど上だ。高い位置に鉄格子のはまった大きな窓が一つ。
部屋の中は中央に僕が寝かされたベッドが一つあるのみで、他には何も無い。他には、
木製の扉が一つある程度だ。
不意に扉の向こう、離れた位置から足音が響いてきた。かつ、かつ、かつと煉瓦の床を
ブーツの硬い靴底で踏む高い音が聞こえる。冷や汗が一瞬の内に全身から噴き出した。
足音は扉の前で止まり、何やら話し込む声が聞こえる。暫くの問答の後、鍵を開ける音
がしてから扉が開いた。普段殆ど使われていないのがよく分かる、錆びた金属の擦れる断
末魔の如き騒音と共に。
「レイ、帰ってきたとは聞いていたが、まさかこんな所で会うことになるとはな」
入ってきたのは、顔馴染みの女性だ。くすんだ長い金髪を後ろで一本に束ねた。長身の女
性。シンプルな灰色の胸当てと、着古した紺色のサーコートが彼女が騎士であり、尚且つ
あまり高い地位ではないということを示している。気が強そうだが、それと同時に幸の薄
そうな何ともいえない顔立ちだ。
彼女の名前はモモカ。薬士の娘である、ミミちゃんの姉だ。彼女たち姉妹とは、長い付
き合いになる。
入ってきた相手が顔見知りだったことで、僕は無意識に安堵のため息をついた。
「モモちゃん」
「その呼び方で呼ぶな」
躊躇無く頬をはたかれた。本気ではなかったものの、結構痛い。
「いつも言ってるだろう、モモカさんと呼べ、と」
「ごめんなさい……モモちゃん」
拳で殴られそうになったので、慌てて謝ってモモカさんと呼び直した。
「で? 今回は何だ」
「森から帰ってきたらいきなり教会の騎士が来て魔物との関係を疑われてここに放り込ま
れた」
「お前、本当に上から目を付けられてるな。……まあいい、それなら一週間もすれば無事
出てこれるだろうよ。どうせ魔物との関係なんて本当は無いんだろう?」
モモカの言葉に、無言で目を逸らす。それだけで、察しのいい彼女は事態に気づいたよう
だ。
「おい、お前まさか」
「モモカ、ちょっと耳貸して。事情の説明と、お願いがあるんだけど」
「わ、私はお断りだぞ。一緒に並んで処刑なんてされたくない」
「まあまあいいからいいから……」
: :
レイスゥ・アルディエイドが町へ戻ってから、一晩が経ちました。今日も陽は高く登り、
大地を燦々と照らしています。
ここは町の西にある平野地帯。見渡す限りろくに整地もされていない荒れ野で、人っ子
一人、魔物っ子一人見当たりません。
「むう」
誰もいない筈の平地で、どこかから可愛らしい小さなうなり声が聞こえてきました。声の
主は、一体どこにいるのでしょうか。
周囲を見渡してみると……いました。一際大きな岩の陰に隠れるようにして、一匹の蟻
が東の方向を見つめています。彼女はこんな場所で一体何をしているのでしょうか?
蟻は岩陰から頭だけ覗かせていましたが、やがて頭を引っ込めました。しかし、触角が
隠れずに岩から出ているままです。頭隠して触角隠さず。
岩の裏側、蟻がいる場所のすぐ横の地面にぽっかりと穴が開いています。穴の幅は直径
一メートル前後で、ちょうど蟻が出入り出来そうな大きさです。
岩陰に潜んでいた蟻が、すぽんと吸い込まれるようにその穴の中へと飛び込みました。
穴は五メートルほどの深さがあり、側面には一つの扉が存在していました。扉には女性ら
しい丸みをおびた文字で「レイ君お迎え前哨基地」と書かれています。
扉を開けると、そこはちょっとした居間になっていました。土中を掘り進めた広々とし
た空間に、土を固めて作ったテーブルやソファー、果ては簡易ベッド。そこに、五人のジ
ャイアントアントが思い思いにくつろいでいます。
入ってきた蟻は、テーブルの前にすとんと胴体を降ろして座り込みました。机の高さは、
蟻の胴体を地に着けて座った時に一番使いやすい高さになっ
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