そして始まった、魔物たちによるお持ち帰りツアー。
まず始めに、今回の作戦の功労者である約四十人のアラクネたちが男の品定めに入る。
アラクネたちは反発心の強い者や乱暴な者を快楽で手篭めにするのが好きらしく、騎士
団の好戦的な荒くれ者や気の強いお偉いさんが特にお気に入りのようだった。
ちなみにシンシアは魔法使いのヴェールズを、アリスはルジェリオ君が気に入ったよう
でほくほくの笑顔で胸に抱き抱えていた。ルジェリオ君も、アリスが相手ならまあ大丈夫
だろう。多分。きっと。大丈夫。……であって欲しい。
アリスにはその内また巣にでも来て欲しかったのだけど、それを言いかけた途端蟻の皆
に無言で鋭く睨まれたので途中で口を噤んだ。一時的に協力したとはいえ、やはり蜘蛛の
人たちとは仲が悪いようだ。
次にやってきたのは、足の速い蟷螂の魔物が二人。その姿は蟻や蜘蛛と比べると人に近
く、異なるのは両の手首から伸びる刃や頭の複眼程度。蟻の皆に説明されて、初めて蟷螂
の魔物だと分かったほどだ。
二人の蟷螂はさり気なく捕虜の集団に紛れ、そして十代前半の小柄で幼い少年を選んで
抱きかかえるとやはり音も無くすぐに森へと帰って行った。じっくり時間をかけて男を選
りすぐっているアラクネたちと比べると、中々のスピード解決だ。
蟷螂が去った直後。三つの人影が目にも留まらぬ驚異的な速度で衝撃波を撒き散らしな
がら飛来し、土埃を舞い上げてそこにいた存在全てを茶色く染め上げた。
飛び込んできたのは、蝿の魔物だ。彼女たちはまるで素行の悪い不良少女のような性格
で、乱暴な口調であれやこれやと言い合いながら教会の地下に捕まっていたらしい囚人三
人を捕まえると、やはり強烈な衝撃波と共にその場から一瞬で消え去った。
彼女たちにお持ち帰りされた男たちは囚人相応の強烈な体臭を放っていたのだが、蟻た
ち曰く「あのハエは臭いフェチだからそういうのは逆にご褒美」らしい。魔物の好みも色
々なんだとちょっとだけ感心だ。いい意味でも悪い意味でも。
その後少ししてから蜜蜂と雀蜂、二種類の蜂の群れが喧嘩をしながらも森から飛んで来
て、蜜蜂は肌の綺麗な肥えた男、彼女たち曰く「蜜でぬるぬるし甲斐のある柔らかい人」
を、一方の雀蜂は鍛え上げられた筋肉質の男を、各自より分けてお持ち帰りした。
この二種は最初から最後まで喧嘩を続けていて、いつ取っ組み合いの乱闘になるか冷や
冷やしたものだ。幸いその場に少数残っていたアラクネが苛立たしげに一睨みすると、蜂
たちはたじろいですぐに喧嘩を止めた。
蜂の群れは総勢六十人近く、この時点でアラクネと合わせて既に三分の二の男が婿とし
て森へ消えていた。当初はあれだけの人数で絶対余るだろうと思っていたのだが、逆に足
りないのではと思わされる始末。あの森には一体どれだけの魔物がいるのか。
ここで足の速い魔物の波は一度途切れたらしく、少しだけ間が空いた。僕は蟻たちに囲
まれ蟻団子を形成しながら、その中心で脱力してぼんやりとしていた。
その時の蟻たちの会話で分かったことだが、実はこの迷いの森の魔物たちの間での正式
名称は蟲の森で、その名の通り虫の魔物ばかり生息しているのだとか。言われてみれば確
かに今まで来た魔物は全て虫の魔物だ。
そして蟲の森と呼ばれる以前は蜘蛛の森と呼ばれていて、アラクネたちが森の支配者だ
ったらしい。その名残で、アラクネたちの中には大勢で我が物顔で森を闊歩する蟻や蜂が
気に入らない者がいる。シンシアもその筆頭で、蟻だけでなく蜂にも度々ちょっかいをか
けているのだとか。それでも命を奪ったり大怪我をさせて追い出そうとしないだけ、彼女
たちは人が(魔物だけど)出来ている。
蟻たちから森の話を色々と聞いている内に、もふもふの蛾が四人とゆっくりのったり這
って来た蛞蝓が三人、実にのんびりとした挙動で僕たちの前に現れた。
蛞蝓はどうも中性的な男が好みなようで、線の細い、ともすれば痩せぎすとも見える男
を粘液まみれにしながら背中に背負い、蛾の方は男側からアプローチを行った奇特な人間
に応える形でその男の体を豊満な胸元にかき抱き、のっとりと、そしてふらふらと時間を
かけて森へと去った。
余談だがあの蛾の魔物は、どこがとは言わないが身体付きがそれはもう凄かった。思わ
ず見惚れてしまい、嫉妬した蟻に頬を割と強めに抓られてしまったほどだ。結構痛い。
最後に黒光りする例の虫の魔物の群れが四十人ほどどこからともなく現れ、まるで黒い
波に浚われるかのように残った男たちの大半は森へと消えていく。
そして、最後にただ一人残されたボルソン。顔を真っ赤にして背中を丸め、小刻みに震
える様は少々哀れだったが、それも遅れてやってきた狸の魔物によって一応の解決を見た。
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