街から東にある山岳地帯の遺跡に、神々の秘宝が眠っている。
そんな噂話は、俺の興味を惹きつけるには十分なものだった。
俺が雇われ傭兵として拠点を置いているのは、メサイアと呼ばれる主神信仰の盛んな、しかし勇者が生まれずエンジェルやヴァルキリーが一度たりとも降臨したことのない、『神に捨てられた地』という名である意味知られた街だ。
賢王アリソンの統治と采配のおかげで多数の魔物の国に囲まれる立地ながらも侵攻を許さないこの国は、その関係故武具の精製技術や魔法の研究、そして王の直属の部下『三賢者』の手により祝福されたマジックアイテムのおかげで、人の身で魔物と拮抗することが可能なほどの戦力を作り出すことができる。
俺がこの国にいるのも、それらが目当てと言って過言ではない。
それにこの国は傭兵の需要が高い、稼ぐには絶好の街と言える。
そして、俺がそんな噂話を耳に挟んだのは、この街にある酒場の一角でのことだった。
すでに常連になりつつある俺がいつも座るカウンター席でミードを傾けていると、いくつか離れた席で国の兵士らしき男らがこんなことを言っていたのだ。
『街の東の山脈の頂上に、古びた遺跡が見つかった。そこは伝承に残る神の秘宝が封じられた古代遺跡と酷似している。そして伝承通りならばそこには強大な力を持つ守護者が秘宝を守っているだろう』
「……ここが」
そして今、俺の眼前には遺跡がそびえ立っていた。
露出した白い石柱は風雨にさらされところどころが欠けていて、多くの部分が苔や雑草に覆われている。
そんな『いかにも』な雰囲気を漂わせているこれこそが、秘宝が眠るとされている遺跡で間違いないだろう。
街で地図を買い、野を越え山を越え三日三晩歩き続けた甲斐が報われたというものだ、野営具や保存食にかけた金が無駄にならずに済む。
「……いや、まだまだ」
まだ気は抜けない、俺は腰にさげた剣の柄を握りしめて気合を入れた。
この遺跡には、秘宝を守る守護者がいるという。
それを打ち倒さねば神の宝を手にすることは叶わないだろう。
故郷に住まう両親と、幼い妹と弟のことを想う。
貧しい農民である家族を養うため、俺は傭兵となった。
ここでその秘宝を手に入れれば、弟たちを学校に行かせてやれる、両親にも楽をさせてやれる。
俺は、気を引き締めて遺跡の中へと踏み出した。
***
遺跡の中は、意外なことに外ほど風化が進んでいなかった。
ひび割れた天井から差し込む光が薄暗い内部を照らし、チラチラと舞う埃が照らされている。
罠がないことを確認しながら、一歩一歩慎重に歩を
進めていくが、拍子抜けなほどに何もなく、魔物の一体も現れやしない。
「……噂は所詮噂だったのか?」
こうまで守りが薄いと逆に不安になってきた。
この遺跡は学術的な価値はあれど神の秘宝などありはしないのではないか。
そうなればここに来た意味がまるでない。
俺は焦りからか少しだけ歩調を早めて、さらに遺跡の奥に進む。
そうするうちに階段が現れた。
外から見たときも巨大な遺跡だとは思ったが、内部を探索してそれをますます実感する。
異様なほど広い遺跡の内部のどこに宝が眠っているかもわからず地道に探索しながら進んでいると、二階の半ばほどまで探し回った時点ですでに日が傾き始めていた。
探索を開始した頃は昼時だったというのに。
「……これ以上は危険、だな」
ただでさえ薄暗い遺跡の内部、夜には一歩前も見えないほどの暗闇に包まれるに違いない。
今日はここまでにして、また明日探索することにしよう。
念のために魔物避けの香を焚いて、保存食を齧り眠りについた。
そして、翌日、また翌日と遺跡の中を探索する。
宝らしきものはは欠片も見当たらず、俺の焦りは少しずつ強くなっていく。
気がつけば保存食も帰りの分しか残っていない、今日中に見つけられなければ、断念して帰らざるをえないだろう。
「くそ……」
結局野生動物すらも一匹も見かけぬまま、俺は苛立ち混じりの早足で遺跡の中を探索していた。
すでに7階、でかいと思っていたがこれほどとは。
太陽がてっぺんから傾き始めた頃、俺は半ばヤケッパチになりながら次の階へと進む階段を登る。
「……ん?」
そこで、俺は屋上へと出た。
山の上故に遮るものの少ない強い太陽が目を焼いてくる。
辺りを見渡せば、何一つ遮蔽物のない絶景が辺りを覆い尽くしている。
山の頂上からただ見た眺めも良かったが、ひときわ高い遺跡の頂点からの眺めは格別だ、あれはメサイアか……そして、それを囲むようにして不死者の国、あれは暗黒魔界、あれは明緑魔界……なぜメサイアがあれらに囲まれて無事でいられるのか、こうしてみるとますます疑問になってきた。
「……んん?」
と、周囲を見渡すことで、俺はようやくこの屋上にも一つ目につ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想