早めに仕事が終わった日の夕飯を終えて、食後の一服を嗜んでいた彼は、何とは無しにぼんやりとエレナの背中を見つめていた。
洗い物の真っ最中であるエレナはいかにもご機嫌といった様子で、鈴のように綺麗な鼻歌を歌いながら小刻みに体を揺らしてリズムをとる姿は、夫のひいき目をなしにしても大変愛らしい。
後ろからそっと抱きしめてやろうかと彼はカップを静かにおいて立ち上がり……ふと、思った。
エレナの背丈は彼よりもだいぶ低い。
戦士としてそこそこ名が知られている彼はなかなかの恵まれた体つきをしている。
そして今彼の目線を幾分か下げた位置に頭が見えるエレナは女性としての平均値よりわずかに低い身長である。
すなわち、二人の間には結構な身長差があったりする。
肩幅なんて2倍近く差があるのではないか、それほどまでに彼女の体は小さくて、か細い。
それをなんとなく実感した彼は、唐突に不安になってしまった。
こんな小さな体で毎日家事をこなしていて、彼女が疲れやしないだろうかと。
キキーモラに、こんな心配は不要なのかもしれないけれど、それでも心配だ。
そして、そう考えた途端に彼の胸の内でその不安は一気に大きく膨らみ始めた。
彼の何よりも大切な存在が、体を壊してしまったなんてことになったらきっと彼は大変なことになるだろう。
「……よし、と。 ……え?」
洗い物が終わったのか、手ぬぐいで綺麗に手を拭ったエレナは振り返った直後に捨てられた子犬のような目でこちらを見つめる自分の主人の存在に気がついた。
「ど、どうなさいましたかご主人様?」
慌てて駆け寄るエレナ、側によっても主人の顔は一向に晴れない。
いったいどうしてしまったのかと珍しくうろたえるエレナに、彼は普段とはまるで違うか細い声でエレナにポソリと告げた、椅子に腰掛けてくれないかと。
エレナは主人の様子に戸惑いながらも、側にあった木組みの椅子にちょこんと座った。
いったいどうしたのだろうかとうろたえるエレナの背後に、彼はそっと歩み寄る、そして。
ギュッ
「ひゃっ」
そのエレナの細い肩を、主人の大きな大きな手が掴んだ。
突然の刺激にびくりと震えたエレナに彼は慌てて手を離し、痛かっただろうかと尋ねた。
「い、いえ、突然のことで少しびっくりしてしまいまして、痛かったなんてことは……ご主人様、急にどうなさったのですか?」
痛くなかったと言われて、彼はホッと一息つく。
そして、今は黙って受け入れてくれと告げて、再び肩に手をかける。
「はぁ……???」
エレナはなんだかよくわからなかったが、主人のいうことに逆らうわけもなく、黙ってそれを受け入れる。
そして彼はおぼつかない手つきで、その細く小さな肩をおっかなびっくりもみ始めた。
二の腕の付け根あたりに両手をおいて、痛くないようになるべく優しく、もみもみ、もみもみ。
「ん……」
くぐもったエレナの声にやはり痛かったかと彼は硬直するも、その表情には不快感などかけらもなく、むしろ心地よさに思わず声が出たといったところだ。
力加減は問題ないと確信した彼は、少しだけペースを上げて、エレナの肩を揉む。
「気持ちいいです、ご主人様……」
普段とは違う蕩けた声のエレナに、彼は安堵の息を吐いた。
「でも、なんで急にお肩を揉んでいただけたのでしょうか……?」
エレナがポツリと疑問を漏らす。
彼は普段の自信に満ち溢れた表情とは打って変わって不安そうな顔で、こう告げる。
ーーー君の肩があまりにもか細くて、とても不安になった。何かしてあげたくて、今肩を揉んでいる。
主人の言葉を聞いて少しだけぽかんとしたエレナは、すぐにくすくすと笑いだした。
笑うことはないだろうと顔を赤らめる主人にペコペコと頭を下げつつも、エレナはにこやかにこう返す。
「ありがとうございます、ご主人様の気持ち、とても嬉しいです」
偽りない感謝の念を告げられた彼はますます顔を赤らめて、まるで初心な少年のようだ。
普段とはあまりにも違う態度にますますエレナはおかしくてくすくすと笑う。
彼はそれが少し不満ながらも、エレナが喜んでるならいいかと諦めて肩もみを続行した。
「んんっ……そこ、気持ちいいです、ご主人様」
戦士として、体の疲れがたまりやすい場所を熟知している彼の按摩は、思いの外効果覿面のようでエレナがうっとりとした声をあげる。
ここまで喜んでくれるなら望外だと彼も少し調子が上がってきて、先ほどまで揉んでいた腕の付け根から、首筋に近い部分に手を移してグッとツボを揉み込んだ。
「あんっ」
そして、聞こえる喘ぎ声。
「……」
気まずい沈黙が二人を包んだ。
今のはどう聞いたって喘ぎ声だよなと思う彼に対し、エレナは顔を真っ赤にして俯いている。
確定、今のは喘ぎ声だ。
どうやら今揉んだ部分は
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