自己の変容

 ―かつて、「陸上の大沼」と恐れられた国があった。
 その国はアンデッドに溢れ、その地に立ち入るもの全てを喰らい尽くしたと言われている。
 その全てを引き摺り込む様相から、このような名前が付いたとされた。

 また、この国の王は上級のアンデッドであるワイトであった。
 この王にも様々な伝承があり、その一つ一つが並居る冒険者や教団騎士、はたまた勇者すらも呼び寄せることとなった。

 一つ、この王の持つ宝玉は、魔王より賜りし魔力が込められていた。
 一つ、王への道はアンデッドで埋もれ、王城すらもアンデッドの腐肉で出来ていた。
 一つ、勇者ですらも、王城へたどり着けたのは20を越さず、その誰もが帰らずとなった。
 一つ、王の瞳は、人を死に至らしめ、腐敗させる魔力を持っていた。
 一つ、王の傍らには、かつてその魔力を求めた魔術師のアンデッドが仕えていた。

 この他にも大小様々な伝承があるが、真相を知るものは一人としていない。



 「…のう、ロリアよ」

 そして、沼の王は語る。

 「我は、何時までこの退屈な時を続ければ良いのじゃろうな…」

 体中が腐り落ち、それでも尚山のような体躯を揺らして言う。

 「ここまで来れた人間なぞお主や一介の勇者共程度、我に傷を付けられた者は優秀な魔法使いであったお主しか居らぬ。この様な腑抜けた勇者共から何を護る必要があるのか」

 ずるり、と腐肉が崩れ落ち、それに釣られてか沼の王の体も崩れた。

 「もう、疲れた。いい加減に眠らせておくれ。魔王よ」

 既に瞼も眼球も無い目を虚空に向け、それ以降何も喋らなくなった。
 傍らに控えていた、半身が崩れ、喉も腐れ、呻き声すらない魔女のアンデッドがそれを見て、傍らの玉座に座り瞳を閉じた。
 また、何も変わらない明日に何を思い、二つの死体は眠りに付く。






























                そして、世界中に風が吹いた―




















―――――





「……………む」


 アンデッドの王が、目を覚ました。
 どうやら今日はこの魔界も晴れているようだ。
 …晴れているとはいえ、見えるのはただの夜空なのだが。


(………?、なんじゃ?随分と目線が低いのう…、まるで幼子の頃のようじゃな)


 幼い頃に魔王に連れ去られ、忠誠を誓わせる呪術を掛けられ、十分な教育(洗脳)を施されてからアンデッドの王たるワイトに変えられた。今となっては懐かしい記憶でもあり、正直自分でも忘れ去ってしまっていたような記憶だった。


(あのクソ忌々しい魔王め…?、何故じゃ、今あ奴に対しての愚痴を考えたぞ?)


 洗脳は、完全な忠誠を誓わせると共に魔王に対しての反感全てを禁止する物だった。
 なのになぜ、こんな事を考えることが出来た?


(なにやら今日は色々とおかしいのう…、して、ロリアは何処じゃ?)


 いつもなら左を見下ろせば傍らに付いてくれているが、目線が低いせいで玉座に阻まれてしまっている。
 玉座の上に居ては見られないので、一旦玉座から降りて隣の玉座を覗き見てみると、そこに居たのは。


(お、おお、おおおおお…!?)


 そこに居たのは、黒いボロボロのローブ一枚に身を包んで眠る、人間の頃のロリアの姿だった。…否、人間の形にして人間に有らず。アンデッドである証拠としてか、肌の色は灰色になり、沼の王との戦いで魔法の媒体にした片目の場所には潰れ腐れた眼球が代わりに嵌め込まれていた。


(何と言うか、こやつの膜をぶち破った時のような興奮があるのう…、こう、むらむらっと…はするのじゃが、何かが足りん)


 そんなこんなで欲望に揺れている間に、ロリアがその生きている片目を開く。
 そしてこちらを少し訝しげな表情でこちらを見つめた後、頭を見て納得したのか頷き、口を開く。



「お早うございます、貴方様…、私が喋ることが出来るのはこの際置いておきましょう。一体どうしてそのようなお姿になられたのです?」

「どうしてこのような?、何を言うておる。それはこちらのせ…?」


 ふと、違和感に気付いた。
 声が高い、目線がロリアよりも若干低い、むらむら来ても何かが足りなかった、玉座を降りた。何処かが、絶対におかしい。
 恐る恐る、両腕を上げて(これで苦を感じない時点で色々おかしい)視界の中に映す。―腐れ落ちてなど居ない。まるで女子のようなつるんとした掌だ。
 先程から何か重みを感じる胸と、逆に何の感触も無い股間に手を寄せる。―もにゅん 豊かである。すかっ あるべき物が無い。…これではまるで。


「そ、そうじゃ。ロリアよ、鏡を用意しておくれ」


 こくん、と頷き水の魔法で水鏡を作り出したロリアに
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