ゾンビな君は、一途に彼と



「んー、良い天気だ」
「うあー」
「やっぱこういう日は散歩に限るな。 お前もそう思うだろう?」
「うあー」
「そうだろう、そうだろう。 お前は色白美人なんだけど、たまには肌を焼くのも悪くない」
「うあー」
「はっはっは、照れるなって。 道行く人もお前を見て、美しさのあまり立ち止まってるじゃないか――おっと、ペースを落としすぎたか。 危ない危ない。」
「うあー」
「よしよし。 あ、おねーさん、道譲ってもらえませんか。 こいつに腹減らしてるんで、近づくと男女お構いなしに見境なく襲いますよ。」
「うあー」


そそくさと足早に立ち去る女の背中を見ながら、男はすぐ後ろから伸ばされた女の手をするりとかわし、歩くペースをあげる。 そして、きっちり5メートルほどの距離を開き、先ほどのようにまた、のんびりと歩きだした。




「ねぇ、あんた。 一緒に遊んでやってもいいわよ」
 いつものように砂場で小さな砂山を作っていた10にも届かない少年の背後に、いつの間にか、美しい波打ったブロンドの髪を肩辺りで揃えてた少女が立っていた。 この村に住んでいる人間が着る、簡素な安っぽい服ではなく、少女はしっかりと色鮮やかな刺繍が盛り込まれた衣装を着ている。 少女は勝気そうな目で少年をキッと見据えている。
片田舎の小さな村であるが、子供の数はそれほど多くなく、生まれてから今に至るまで、ずっとこの村に住んでいた。 だが、この少女は初見である。 この態度はいただけない。少女の物言いに気に障ったのか、少年は親にも目つきが悪いと言われた眦を、さらに鋭くする。
「はぁ? 誰よ、お前」
少年は敵愾心を隠さず言った。 一つか二つ程年嵩の少女ではあるが、初対面にもかかわらず傲慢な物言いをされた為、少年の口調はいささか乱暴な物になる。
 彼の睨みを受けても、少女はどこ吹く風と言わんばかりに鼻を鳴らした。 明らかに小馬鹿にしてくる少女の態度に、少年はさらに怒りを膨らませるが、少女は彼に負けず劣らず鋭い視線のまま腕を組んだ。
「お前って随分失礼ね。 人にものを尋ねる前に自分から名乗るのが常識でしょ?」
「お前も大概常識知らないみたいだけどな」
「あたしはあんたよりも年上よ」
「先に生まれりゃ、馬鹿でも年上になるんだよ。 わかったか、馬鹿」
「ふんっ」
 元より沸点の低い少女は、それと同じぐらい我慢の出来ない少年の言葉によって、加速的に不機嫌になっていく。

少女は、この街に引っ越してきたばかりで、友人と呼べる人はいない。 だから少女なりに友人を作ろうと努力をしてみたが、最初から躓いてしまった。
 この男はハズレだ、次の同じぐらいの年の子を探そうと、少女は冷たく少年を見据えて言った。
「名前はなんて言うのよ」
「なんでお前なんかに言わないといけないんだよ」
「あっそ。 まぁ覚える気もないし、どうでもいいわ」
 そう言い残して少女はさっさと行ってしまった。
「なんだよ、あいつ」
 少年は砂山作りを再開したが、先ほどの嫌味な少女が頭から離れず、全く楽しくなかった。




「ふー、一日デスクワークってのも肩がこるな」
「うあー」
「ん、ここから出せって? やなこった」
「うあー」
「まぁ理性がないってのは仕方ないにせよ、取っ手式の引き戸すら開けれないお前が悪い」
「うあー」
「押してダメなら引いてみろって言葉があるけど、お前は馬鹿だからそれも出来んだろう」
「うあー」
「まぁ頑張ってくれ」
「うあー」




「全くどいつもこいつも」
 あの口の悪い少年と初めて会って1週間がたった。 ブツブツと周囲に悪態をつきながら少女は街道を歩いていた。
「私が遊んであげるって言ってるのに、なんで誰も一緒に遊ばないのよ。 これだから田舎者は困るわ。 都会人に比べて、知性も教養も優雅さも何もかも足りないわね。」
 それを聞いた周囲の大人達は、顔をしかめながら少女を見るが、少女は自分の世界に閉じこもっているために、それに気づく様子もない。 少女の口の悪さは周囲の大人たちもこの1週間でしっかり理解している。 そのため何度か大人達も注意しているが、少女は一向に改善する気がなかった。 優しく諭すものには、はいはいと頷き流し、激高しながら叱るものにはさっさと逃げ出しているので、大人達も叱るのが面倒臭くなってしまい、諦めている。
「パパもママもこんなとこの何がいいんだか。 自然以外何もないじゃない」
 周囲を眺めてみても、広い農地と細い川、ちらほらと一軒家が立っているだけである。 時たまに人とすれ違うが、大抵は旅人とか傭兵や付近に住む農民である。
 少女の両親にとって、ここは以前に住んでいた住み慣れた田舎であっても、都会生まれの少女にとっては初めて来た土地である。 知っている人間は両親しかおらず、味方と呼べ
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