匂いの下につくまで、そう時間は掛からなかった。
ただよう匂いを元に歩き続けていったら、人間の作った建物についた。
中は誰もいなかった。私は匂いをたどった。
一つの場所についた。開けた。匂いで一杯だった。暖かかった。
特に匂いの強い場所を見つけた。心の底がぽかぽかした。まぶたが落ちるぐらい。幸せな空間。
・・・まどろみに、堕ちる。
扉を開けるとそこから広がる6畳一間のオレの部屋。
扉のすぐ横にグラキエスの能力を用いた魔力製の冷蔵庫がある台所、そのまた横にはトイレのある個室。
台所の方から後ろを向けば6畳の居間。
普段はそこで布団を敷いて寝たり、古紙を敷いてその上で訓練用の槍の手入れをしていたりしている。
その居間は壁際に小さな本棚と畳まれた布団がおいてあるだけで、殺風景な部屋というイメージが強い。
・・・そんな面白みも何も無い部屋の一角・・・厳密には畳まれたオレの布団の上に。
「すぅー・・・スゥー・・・ZZZ」
名も知れぬ誰かがうつ伏せで寝ころんでいた。
「・・・。」
しばし眼を瞑って、再度目を開く。同じ光景。どうやら夢ではないようだ。
部屋で待っている竜というのは、おそらくこの人ではないか。うつ伏せで寝ているその体の背には、大きな翼が生えていた。
・・・その翼がなんというか、禍々しい形になっているのが気になるが。
「えっと・・・あのー、起きてください」
とりあえずこのままではいけないだろうと、寝息を立てて眠る竜をしゃがんでその肩を軽く揺さぶる。・・・起きない。
揺さぶる。起きない。大きく揺さぶる。寝息は変わらない。力をこめて揺さぶる。ごろん。
「うおっと」
竜が突然寝返りを打った。うつ伏せから仰向けの状態になる。
そこでオレはまた気がついた。
「・・・なんだ。これは」
竜の体を見て思う。
あまり見たことがない色白・・・というか血の気のなさそうな青みがかった肌。
その肌を守るように突き出されている骨みたいな鱗。
顔の方を見れば、色白だが整った顔立ちに銀色の髪。頭から生える、これまた禍々しい形の角。
たぶん竜・・・種族的にはドラゴン、なのだろう。
だが、こんな妙な色合いと形をしたドラゴンは見たことが無かった。
「ん? 待てよ」
オレは思い出そうとする。
騎士団本部での講義の中で、今この世で知られている竜種について学んだ。
たしかその中に、こんな特徴を捉えた竜がいたような。
「んー・・・んうう・・?」
「お」
その竜の種類を思い出す前に、目の前の竜が目を覚ます。
生気が全くなさそうな肌なのに、その眼はどこか燃えるような、まるで太陽そのものを眼に宿したかのような紅(あか)い色をしていた。
そいつは寝ぼけまなこな状態で、何度も眼をこすりながら大きなあくびを漏らす。
そしてその視線がオレの方を見ると。
「・・・?」
一瞬キョトンとした顔をし、
「・・・。」
「お、おい?」
その顔をオレに近づけてきて。
「・・・(スンスン)」
「な、う、お!?」
オレの顔を嗅ぎ始めた。
いきなりのことにびっくりしてしゃがみながら後ろに離れようとしたが、その瞬間に竜の両腕が俺の腰をつかむ。
そのまま尻餅をつき、しゃがんだ状態から半ば押し倒されるような状態になるオレ。
「(スンスン)」
「な、ちょ、おい!?」
腰に手を回されながら、一心不乱に目の前のオレの体を嗅ぎ続ける竜。
竜の顔はだんだんオレの顔に近づいてきて、腰から腹を、腹から胸を、胸から首へ嗅ぎ続ける。
そして首を一通り嗅いだ後、顔をオレと同じ高さの部分で止める。
「・・・。」
「あ、あの・・・?」
無表情でじっと紅い目をこちらに向ける竜。その眼からは感情があまり読み取れない。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
二人で沈黙。そして―――。
「・・・あはぁ♪」
「・・・!?」
急に竜の顔がニヘラぁ、と歪んだ。眼の中に表情が、笑みが見えた。
その不気味な笑みを直視し、オレは「それ」が何なのかを一瞬で理解してしまう。
―――餌を見つけた魔物の顔。
「ぐっ、放せ!」
急いで竜から距離をとろうとする。が、それより速く両肩を竜の両腕で抑えられしまい、竜に完全に押し倒される状態になった。
「にげちゃ、やぁ・・・♪」
「ええい、くそ!」
もがいてみるが、竜は放そうとしない。
肩はガッチリ固定されたまま。竜の体が、やわらかな胸が、ふくれた腹が、オレの体に押し付けられる。
竜はオレを見下ろしたまま不気味な笑みを絶やさない。口からは涎が垂れ、オレの顔にかかってくる。
「これでもう、にげられなぃい・・・」
「ぐ・・・!」
ほかになにか試す。オレにできることは。今のオレにできることは!!
―――このまま
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