多分それが始まりというやつ

怖い。痛い。暗い。体が沈む。

消えた意識の中で彼女がそう感じたとき―――それ以外感じることができなくなったとき。理解する。
ああ、自分は死んでしまったのだな。
こんなところで一人で。誰の眼にも留まらぬまま。

おそらくこの先。ずっと、もっと、沈んでいくのだろう。
暗く、深く、冷たいそこへ。



・・・なのに。不思議と。寒いとは感じなかった。










山道を外れ、声のする方向に向かってゆっくり向かうこと数十分。

「・・・。」

また改めて耳に澄ます。
先ほどまで聞こえていたか細い声は、最初のときと比べ、徐々に小さくなってきていた。
もしや離れてしまっているのか、と思い始めた時だった。


―――カタンッ。


「―――!!」

近くで何かが落ちるような音がした。
音のした方向を定めながら、その方向をゆっくりと近づいていく。
暗くてよく見えないが、足から感じる硬い石の様な感触からするに、どうやら岩石群の一部に出たみたいだ。

そして、―――そこに何かがいた。

「ッ・・・」

一旦呼吸を整え、その何かを見る。

(人、か?)

人影のようなものが寝ているように見える。ただここからでは影しか見えず、それが何なのかは分からない。
オレは周りに他の気配が無いことを確認すると、雑嚢から30センチほどの小さな松明取り出し、火打石を使って火をつける。
松明を掲げながらゆっくりと、影に近づき・・・


「!!」

そいつが、魔物娘―――竜であることを知った。



「・・・。」

しばしの間、何も考えることが出来なくて、危うく松明を落としそうになる。
次に身の危険を感じてここから離れようとし――――疑問を感じてはたと立ち止まる。
もう一度松明を竜のほうに向ける。竜は仰向けに寝たまま、動こうとしない。

(こんなに近くにいるのに、なぜ起きない?)

今度はオレの方から寄ってみる。徐々に寄ってみると、その理由が分かった。

「・・・これは」

竜の体はボロボロだった。
鱗のあちこちに傷が付き、二本あるうちの一方の脚が、あらぬ方向に曲がってしまっている。
翼の皮膜が破れ、顔や肌が露出した部分は無数の擦り傷の跡があり、酷い所は赤黒く染まっていた。

「・・・。」

そっと肌の部分を触れてみる。―――冷たい。何かが流れているようには見えなかった。

竜は寝ていたのではない。・・・事切れていた。


「助けを呼んでいたのはこいつか・・・?」

そう言いながらオレは竜のいた真上を見る。切り立った崖があった。
状況を見るに・・・がけの上を歩いていて足が滑ってここまで落ちてきて、当たり所が悪く。といったところか。
そして―――多分、さっきまで生きていたのだろう。

「・・・遅かったってことか」

ついていたところでオレが何か出来るわけでもなかっただろう。雑嚢には必要最低限の医療品しか入っていない。
それでも、目の前の、助けを呼んでいた奴がいなくなった光景を見るのは、なんともいえないやるせなさを感じた。

「・・・。」

そこでしばらく突っ立っていると。


ポツリ、ポツリ。


「あ」

雨が降ってきた。しかもだんだん雨脚が強くなっている気がする。

「やばッ!!」

オレはどこかに雨宿りができそうな場所を探す。
するとちょうど岩石群の中に、一際大きな岩がちょうど屋根になるように積み重なったスペースがあることに気がついた。
オレは急いでそこに走り、荷物と松明をそこにおき―――今度は竜の元へと向かった。

「せーのッ!!」

そして竜の体を肩越しに担ぐと、一緒にその屋根のある場所へ向かった。

どうしてそんな行動に踏み出したのか、自分でもよく分からない。
ただ、竜の―――彼女の冷たくなった体をさらに冷たくさせるのは、なぜか嫌だった。

「お、重い、な・・・!!」

やっとの思いでオレは雨宿りのスペースまで彼女をかつぎ終わると、静かに体を横にさせた。
オレはふう、と息をを吐いたあと、松明を岩と岩の間に挟めた。

しばらく休み、外の様子を眺める。

「これは止みそうに無いな」

雨脚は依然強いままを保っている。
暗闇をこんな中で歩くのは危険だと判断すると、野宿するために、雑嚢から毛布を取り出そうとする。

「・・・。」

毛布を手に取り出すと、ふと、彼女に目が行った。
オレより頭一個分でかい身長の体。鱗とそこから見える肌・・・そして無数の傷。
もう動くことは無い体。とはいえ、目のやり場に困るのもそうだし、傷を見るのも気が引ける。

「・・・はぁ」

オレはまたため息を吐くと手に持っていた毛布を彼女の体の上にかけた。
そのまま彼女から距離をとった所で背を向けて寝転がる。

(何やってんだろ、オレ)

帰りの道で竜を見つけて、雨に濡れないよう運んで、その
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