ある熱血娘の話

「なぁ…おい…おいってば! 寝るなよ! ちゃんと起きろよ!」
「…あぁ? う〜ん… もう食べられないよ…」
「ごまかすんじゃねえよ! いまどきそんな寝言言うやついるか!?」
「あぁ… クソッ… めんどくさいから寝たことにしてやり過ごそうと思ったのに…」

悪態をつきながら、相方の呼びかけに応えてその男は目を覚ました。
まぁすでに日も落ちてしまいずいぶん時間がたっているので、彼が眠ってしまうのも無理はない話なのだが。
しかし見張りという立場上、眠ってしまっては意味が無いのであった。

「ぼやいてる暇があったらさっさと見張れよ! また雇い主に怒られて給料減らされたいのか?」
「ああ… 最悪だ、最悪だ… 最悪すぎて吐き気がする… あの程度のことで怒るなんて、本当に器の小さい雇い主だよ…」
「仕事放棄して、ほかの連中と博打やってるのを怒られないと思ったのか!?」
「大体、こんなだだっぴろい平野のど真ん中になんの危険があるっていうんだ? 周りには危険な野生動物の姿もないし、身を隠せるほどの高さの草も岩も何もないって言うのにだ! おまけに今夜は満月だ! この条件で接近する危険に気が付かない阿呆なんていると思うか?」
「お前の言い分も分かるが、そのあるかもしれない危険を排除すんのが見張りの仕事だよ! いいからさっさと仕事しろ!」

口うるさい相方にケツをひっぱたかれて見張りの仕事を再開する。
ああ… こんなことならギルドにはもっと楽な仕事を紹介してもらうんだった…

「おい! 隠れてサボろうとか思うなよ! ちゃんと仕事しろよ?」
「ああ、わかってるよ…」
「本当にわかってんのか? 大体、お前はいつもいつも…」

………?

「おい… 途中で喋るのを止めるなよ。 気になるだろうが」

………返事が無い。

「おい、人が話してるんだから返事くらいしろよ!」

そう言いながら後ろに振り返って先ほどまで喋っていた相方の姿を確認しようとしたが、そこには相棒の姿はいなかった。

「…え?」

おかしい。
何故急にいなくなる?
本隊のところに帰った? いやありえない。
ここからあそこまで行くにしたって、300m位あるぞ?
それを俺が振り返るまでの一瞬で、姿を捕捉されることなく到達する?
馬鹿な、ありえない。
それじゃあ、アイツは一体…?

相棒に何が起こったのか彼には皆目見当がつかなかったが、とにかく相棒は一瞬にして姿をくらました。

「…! やばい…ヤバイヤバイヤバイ! なんだかわからんが何かヤバイ! はっ、早く知らせないと…!」

何らかの異常を感じ取り、隊に戻って事態を伝えようと走り出した矢先。

「うあっ!? うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

彼の叫び声が聞こえなくなったとき、先ほどの相棒と同様に彼の姿も忽然と消えていたのであった。

その日、隠れる場所のないこのだだっぴろい平地において
一つの隊商が、何の痕跡も残さずに消え去ってしまった。


―――――――――――――――――――――――……


鉱山都市ディグバンカー。
山からは採掘や精錬の煙が上がり、町のあちこちからは生活のための炊事の煙や鍛冶職人たちが働く煙が上がっていた。
町はいつもと変わらない日常を送っていた。
そんな日常を取り戻した町の路地を、3人の冒険者と2人の魔物娘が歩いていた。

「それじゃあ、シェリルも旅に同行することにしたんだ」
「はい。 オディおじさんのことをパ… お父さんに紹介して喜ばせて上げたいですし、なによりオディさんに迷惑をかけたお詫びもしたいですし…」
「シェリル? 別にそんなに固くなる必要なんてないぞ? 敬語なんて使わずに、普段通りして気軽に接すればいいぞ?」
「え? でも… それは…」
「そうですよ、シェリルさん。 我々の旅に同行するというのであれば、イザヤのように気兼ねなく接していただいて構いません」
「そうだよ! そんな小難しい言葉なんてしゃべらずに、アタイみたいにもっと気楽に話しなよ! 気楽にさ!」
「で…でも… そう言われてもこれが普段の私なので… その… とりあえずみなさん、これからよろしくおねがいします」
「おう! よろしくな! シェリルはあの偉そうなしゃべり方よりも、こっちの方が断然いいな!」
「だから、それは蒸し返さないでってばぁ!」

赤くなっているシェリルを見て、4人は楽しげに笑っていた。

長槍を扱う超自由人の英雄、『魂の無い男』ルース。
常に辛辣で客観的な魔術師、『心の無い男』スピット。
全身を鋼で覆った苦労人の騎士、『体の無い男』オディ。
それに、押し掛け女房のアマゾネスのイザヤと新たに加わったドラゴンのシェリル。
3人の男と2人の魔物娘は、特に目的の無い旅をする冒険者なのであった。

「しかし、オディにドラゴンの知り合い
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