ある騎士の話

はじまりは、どこにでもあるようなありふれた約束だった。

ぐずるわが子を寝かしつけるために、母親がお話を読み聞かせてくれる。
お話の内容は、正義の騎士様が活躍するという他愛のないおとぎ話。
そんな、どこにでもある当たり前の光景。
話し終えた母親は、子供にやさしく語りかける。

―ねえ、「   」は大きくなったらなにになりたい?
―ぼくはねー、すっごくつよい「きしさま」になりたい! それでね、わるい「どらごん」にさらわれたおひめさまをたすけにいくんだ!
―あらあら。お母さんは助けてくれないのかしら?
―おかあさんもたすける! どんなわるいやつがやってきてもぼくがたおしちゃう! みんなをわるいまものたちからまもる、むてきのきしさまになるんだ!
―くすくす…お母さん、「   」が騎士様になるのを楽しみにしてるからね。

そんな無邪気な子供が語る、自分だけの夢物語。

時を経て男の子は少年へ、少年は青年へと成長した。
そして青年は、憧れの騎士団に入団した。
彼はかつて語った夢の通り、どんな魔物にも負けない強い騎士になった。
気付けば彼は、騎士団でも指折りの騎士となり、多くの従士を持つようになった。
そんなある日、騎士団は彼にある任務を下した。

―騎士団長! 騎士「   」、ただいま参上いたしました!
―よく来たな「   」。早速だが、君には部隊を率いてある魔物を討伐してきてほしい。
―はっ! かしこまりました! それで、その魔物とはいったい…?
―ふん…それがな、伝令によるとその魔物というのがだな…

―……「ドラゴン」、だそうだ。


―――――――――――――――――――――――……


もうすぐ街が見えようかという頃合いの街道は、行きかう人々でにぎやかになっていた。
その内容の多くは次の町へ商品を仕入れに行く商人や、その日の糧を得るために働きに行く日雇いの労働者、そして自らの腕を磨こうとする職人たちが主であった。
そんな中、明らかにそのどれにも属さないであろう雰囲気の彼らも、ほかの者たちと同じ方向へ歩みを進めていた。

「ようやく到着すんな! すげえ楽しみ!」
「アホみたいにはしゃぐんじゃあない。俺らまでおのぼりさんだと思われるだろうが」
「そうですよ。私の知性が疑われるようなマネだけはひかえてください」

彼ら三人は、そんないつも通りのやりとりをしながら、街道の先にある町を目指していた。
だが、そんな彼らの普段通りの光景に、見慣れない同行者が加わっていた。

「ねえ、ダーリン…? アタイ頭いい方じゃないから、その…何かダーリンに迷惑とかかけてないよね…?」
「大丈夫ですよイザヤ。あなたは私の妻ですので、とりあえず私のそばにいてくれるだけで十分満足していますよ」
「ほんとかい!? アタイもダーリンのそばで守ってあげることができて幸せだよ!」
「そうですか、恐縮です。ああ、それと私の呼称は“ダーリン”ではなく、名前の方で呼んでいただけると嬉しいのですが…」
「そうかい? わかったよスピット! これからはダーリンのことスピットって呼ぶよ!」

「……あー…なんというか…なぁ…とりあえず、ごちそうさまだなぁ…」
「ん? オディなんかうまいもんでも食ったのか?」
「いや、そういうわけじゃなくてだなぁ…ルースは純粋だな…」

かつては男臭かった彼らの旅路に、新たに一人魔物の仲間が加わっていたのだった。

前回、自分たちにありもしない集合場所を伝えた男、スピットより先に彼ら、オディとルースはなんとか自力で森の出口を見つけたのだった。
二人は(というかおもにオディが)、常日頃から容赦なく投げかけられる様々な罵詈雑言をそっくりそのまま返す機会が巡って来たとあって、冷血天然マシーンの身を(文句を言われて理解できる状態であるようにと)案じつつ、到着を心待ちにしていたのだったが、日が昇ってからしばらくして、森の中から彼は無事にやってきたのだった。
オマケつきで。

以下がその時のやりとりである

「オディ、ルース、無事で何よりです」
「どうも、はじめまして!」
「「えっ」」
「紹介します、彼女はアマゾネスのイザヤ。彼女と私は先ほど夫婦になりました」
「「えっ」」
「彼女にもこれからの旅についてきてもらいます」
「「えっ」」
「妻のイザヤってんだ、二人ともよろしくね!」
「「なにそれこわい」」

以上

オディはともかくルースも突然のことに面食らってしまい、一瞬キャラがどっかに行ってしまっていた。
まあ、彼らの旅に魔物が加わっても特に問題はないし、スピットの(あとついでにルースの)奇行は今に始まったことではないので、ほっとくことにしたのだった。

「いや、あおりを受けんのは全部俺じゃねえか!」

モノローグに突っ込まないでいただきたい。

とにかく、
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