ある英雄の話

自分だけではどうにもならない時というものは誰にだってある。
もちろん事態を収拾しようとして最大限の努力はするだろうけどもさ。
今言っているのはそれでも駄目なような時のことだ。
そういう時、他人に助けてもらうっていうのは最もポピュラーな解決法なんだろうと思う。
童話や小説なんかでよくあるのは、旅の勇者(単体ないし複数人)がやってきてその問題を解決するというやつだ。
僕らのもとにも、幸運なことにその勇者ってやつがやってきたらしい。


「はぁ〜…なんで僕がこんなことやらなきゃならないんだ…」

もう何度目になるだろうかわからないセリフを、いつも通りため息とセットで吐く。
街道の分かれ道に生えてる木の下で、彼は一週間毎日同じセリフを吐き続けていた。
端から見れば、何の目的もなくただ座っているように見えるが、彼には重大な仕事が任されていた。

「好きでこんなことやってんじゃないんだよ…」

まぁ、強引に押しつけられた仕事なのだが。
彼はこの街道脇で人を待っていたのだった。と言っても特定の個人を待っているわけではなく、文字通り人なら誰でもよかったのだが、とにかく人を待っていたのだった。

「村の大人連中はこんなんで本当に人が来るとか思ってるのかぁ…?」

賭けてもいい。こんなもので村に来るのは相当のバカか、でなければ文字が読めなかっただけだ。

彼は心の中でそう毒づき、自らの隣にある旗に目をやった。
そこには大きな文字で「勇者募集中!」と書いてあった。


―――――――――――――――――――――――……


彼の村はひとつの問題を抱えていた。
村の人員総出でその問題の解決を図ったものの、結果は失敗。
そのため、問題を解決するために村の外から人手を求めているのであったが、そもそも村は周辺に街はおろかほかの村も存在しないような外れであり、一番近い人里に行くには歩いて2週間はかかるという有り様であった。
また、問題解決のためにはかなりの腕っぷしが要求されるので、街に行って適当な人を連れて来ればいいというわけにもいかなかった。

そこで、村の人たちは街道を通る旅人に目をつけた。
今のご時世、旅をするにもある程度身の安全を守る術が要求される。
個人ならば本人が、隊商などの複数人の組織ならば用心棒を雇っていたりする。
つまり、ある程度腕が立つであろうことが予想される旅人に声をかけて、なんとか村を助けてもらおうじゃないかという考えなのだ。
そのための旗であり、村の代表として彼が街道に立たされているのであった。

しかし

「はぁ〜…」

彼のため息からもわかる通り、結果は7日にして0であった。
そもそも外れ村の脇の街道なぞ人が通ること自体まれなのだった。
定期的に通る隊商も、季節の変わり目に一回通る程度である。


今日もなんの進展もないんだろうなぁ…と半ば諦めていた。
そうやって何の進展もないまま、昼時になろうとしていた。

「とりあえず昼飯でも食べよう…」

そうつぶやいて、いつも通り昼ごはんのパンを取り出そうと横を向いたとき

「……ん?」

最初は見間違えかと思ったのだが

「あれは…もしかして人!?」

間違いない! 遠くに人影が見える!
ついに待ちに待った旅人が来たのであった。

これでようやくこの忌々しい仕事から解放される!
そう思った彼は、街道に飛び出して

「す…すいません! そこの方! 少し話を聞いてくれませんか! すいません!」

そう言いながら、こちらの存在に気付いてもらうため全力で先ほどの旗を振りまわし始めた

…のだが

「すいません! すいま……うん?」

遠目に見える人影の姿勢がおかしい。

急に屈んだように見えるけど、どうしたのだろう。
こちらに気付いて何らかのアクションを起こしているのだろうか?
そういえばあの姿勢
『何かを振りかぶっているような姿勢』に見えるような…

そう思った次の瞬間

ひゅぅん

バキぃ!

ドスッ!



「………へぁっ!?」

彼の身に降りかかったことを、自身が理解するのに数秒の時間が必要だった。
上記の擬音に従って説明すると
先ほどの人影が動いて”ひゅぅん”という何らかの風切り音が聞こえ
”バキぃ!”で、持っていた旗の途中が砕け散り
”ドスッ!”で、彼の後方1メートルの地面に何かが刺さったのだった。

いや、それが分かったからってなんだっていうんだ!?
え? ちょっと、なにこれ!? なんなの!?

一度飲み込みかけた事態を反芻して彼が混乱していると

「いやっほぉぉぉぉう! やった! やったぜ! 大当たりだ! なああんた、今の何点だ? 何点になる!?」

どうやら先ほどの元凶らしき男がムカつくくらいに明るい顏で話しかけてきた

「へ…? いや…何点って、そのっ…どういうことです…か
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..11]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33