「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」
古い中国の思想家の、有名な言葉である。
どの時代、どんな場所であっても、友人の大切さというものは変わらない。
時によき理解者となり、時に頼もしい仲間となり、時には互いを高めあうライバルにもなる。
友の存在というものは、心の大きなよりどころとなるだろう。
そして、友情というものは、どこであろうと芽生えるものでもある―――
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ああ、暇だ。
暇で暇でしょうがない。
もし、暇が売れるなら、今頃大金持ちなくらい暇だ。
僕は、さっきからずっとこんな調子だった。
「家事はもう全部済ませちゃったしなー……」
思わず再確認のために独り言ちる。
洗い物もないし、洗濯もすでに済ました。
荷物の整理もないし、資料も大体まとめてしまっている。
掃除も、する必要がないくらいにピッカピカにしてある。
「本も、もう全部読んじゃったしなぁ……」
いつもなら、ここで本を取り出して、勉強のために読んでいるのだろうが、あいにくともう課題の本は全部読み終えてしまっていた。
なら、新しい本を取りに行けばいいのだが、この家の本はウルさんが集めた魔導書やらなんやらが大半を占めており、中には封印されている本なんてものもあるらしく、気軽に触れない方がいいのは重々承知していた。
そして、自分がもともと持っていた本に関しては、もう内容を諳んじて言えるし、最近は、前の世界のモノにはあんまり触れないように意識して避けている。
携帯ゲーム機や携帯電話にしても同様だし、そもそも、もう充電も切れているから起動することすらできない。
残されているのは、同居人の手伝いとか、会話をすることだけなのだが。
「ウルさん……早くサバトから帰ってこないかなぁ……」
その同居人は、彼女が所属している宗教組織”サバト”の、月に一度のイベントである”黒ミサ”のために、数日前から泊まり込みで出かけており、留守にしているのだった。
本当なら僕も手伝いとして行った方がよかったのでしょうが
「それはだめじゃ! まだまだこちらの世界に慣れておらんおぬしが来れるような場所ではないのじゃ。 それに、おぬしを連れていくときは、正式にワシのおにいちゃんとして盛大に発表したいのじゃ……とにかく! 数日で帰ってくるから待っておるんじゃぞ! う……浮気なんてするんじゃないぞ……行ってくるのじゃ!」
と言いわれてしまっては、ついていくわけにはいきませんでした。
彼女に心配してもらえてありがたいかぎりです。
あと、途中ぼそぼそ言っていたことはバッチリ聞こえてましたが、脳が理解を拒否したため、刹那で忘れることにしました。
まぁ、そんなこんなで、僕は留守番のために、この家に残っているというわけだ。
「ごはんでも作ろうかな……」
ちょうど、時刻は昼時に少し足りないくらいだったので、少々早いが昼ご飯にすることに決めた。
有り余る時間を最大限に消費するため、もそもそと気だるげな動きでキッチンのほうへ向かう。
キッチンに着くと、さっきとはうって変わって、体に染みついた動きでもって、テキパキ効率よく包丁やまな板を用意していく。
すっかり主夫業が板についてしまっていた。
「今日は何作ろうかなー」
昨日の昼は、確か肉と野菜を炒めておとといのクリームシチューをソースに改造したものをかけて、パスタと一緒にしてクリーム野菜パスタにしたんだっけ。
夜は、昼の時に使った肉を、あらかじめ下ごしらえしてローストビーフにしていたものと、これまた余った野菜炒めを添えて食べた。
そんで、今日の朝は、残ったローストビーフをパンに挟んでサンドイッチにして食べたっけ。
そこまで思い出してから、気が付いた。
「あ、もう食材残ってないんだった……」
この家の大体の食材事情は把握している。
今、この家にある食料は保存食がメインで、新鮮な野菜や肉といった日持ちしない食糧はあまり残っていなかったはずだ。
実際に、ウルさん謹製の魔法式食糧保存庫のほうに行って、状況を見てきたけれど、干し肉だとか漬物だとか、そういうものがメインで、あとは調理する時に余った食材のきれっぱしくらいしか残っていなかった。
「うーん……さすがにパンと干し肉だけじゃわびしすぎるからなぁ……」
娯楽が少ないここでは、3食のごはんは数少ない楽しみの一つでもある。
なるべく手を抜かないで、最大限に楽しめるようなものにしたい。
ここで工夫して、残りの野菜や肉を消費しきってもいいのだけど、夜のことも考えたら、食材が足りないように思えた。
「うん。食材、調達してこよう」
どうせやることもないので、今日の午後は、近
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