「……ごめんなさい。」
終わった。
彼女、イルファ・ローゼンベルトの言葉は、
俺の初恋を、その一言によって完膚なきまでに打ち壊したのだった。
「あ、でも、ルベルのことを嫌いとか、そういう事じゃなくて、恋人にはなれない事情が…」
「いいよ、別にそんな無理してフォローしてくれなくても。」
「そんなんじゃなくて、私は本当に…!」
「じゃあ、なんなんだよ、その事情って。」
自慢ではないが、彼女と俺は親が親友だったこともあって、子供の頃から互いの事情には精通していた。
だから、最近彼女の周辺で変わったことといえば、3ヶ月前に彼女の妹のノイシェが、隣町に引っ越したこと位で、大した異変がないことはしっていた。
「それは、その…」
ほら、やっぱりそうだ。
その「事情」ってのもきっと、幼馴染にありがちな、「恋人じゃなくて、友達としてしかみられないの」とか、「他に好きな人がいて…」ってなもんだろう。
そんな事情でさえ、隠し通そうとするのは彼女持ち前の優しさ故だろう。
そう思うと、失恋の寂しさは感じるものの、荒んだ気持ちになりはしなかった。
「いや、悪い。変な事聞いたな。まぁ、その、何だ。これまでどおり、普通に気の合う友人として接してくれると助かる。」
「うん…ありがとう。そして、本当にごめんなさい。」
とても申し訳なさそうにいう彼女。
その様子を見ていると、かえってこっちが申し訳ない気分になってくる。
「いや、大丈夫。全然気にしてないからさ。
そのかわり、また今度、一緒に例の酒場に行こうぜ」
例の酒場、とは、俺達の親がそこで宴会を開き、俺達が出会うきっかけとなり、そして、俺達が成人してからは、俺とイルファそしてノイシェの3人でちょくちょく通っていた酒場、レイノルズ亭のことである。
「あぁ、あそこ?
そういえば、ノイシェがいなくなってからは全然行ってなかったね…うん。行こっか。」
いなくなった?不思議な表現をするものだ。
単に隣町に引っ越しただけで、別に会おうと思えばすぐに会えるのに。
まぁ、ローゼンベルトの家は、ずっと昔からこの町で製糸業を営んでいたくらいだから仕方ないのかもしれない。
「じゃあまた今度、店が休みの日の前日…そうだな。次の樹の日、なんてどうだ?」
「樹の日…ね。ちょっと待って。予定を確認してみるから。」
と言って、手帳を取り出すイルファ。
彼女も大人になったものだ。あんな高価そうな革の手帳を持っているところなんて、始めて見た。
「うん、その日なら、大丈夫そう。楽しみにしてるね、ルベル。」
「あぁ、じゃあまた、その日に。」
そう言って、ローゼンベルトの家を後にする。
ときは夕暮れ時。外から帰ってきた羊飼いや、遊び疲れて帰ってきた子供たち。
そして、それを出迎える家族。なんてことはない、いつもどおりの日常。
失恋したことで荒みはしないし、憎むなんてことはありえない。
それでもやっぱり、そう。
寂しかったのだ。
幼い時分から通い慣れた道を辿って自宅へと帰り、扉を開けた瞬間、絶句した。
「おかえりなさい。ルベル。」
つい先程、ローゼンベルトの家で別れたはずのイルファが、出迎えたのだ。
「イル…ファ…?どうして、ここに…?」
「私、あの後、もう一回ルベルの告白のことを考えて見たの。
それで、わかったの。私はやっぱり、自分の気持ちに嘘を付くことは出来ない。
私も…ルベルのことが好き。
一回は断っちゃったけど、こんな私でも、恋人にしてくれますか?」
いやいやいや。まてまてまて。
イルファが俺のことを好きでいてくれる可能性は、まぁ、考慮しなかったわけじゃない。
むしろ、素直に嬉しい。
だが、問題はそこじゃない。【どうして別れたはずのイルファが俺の家にいるのか】だ。
「いや、まぁそれは、うん。嬉しい。
だがなんで俺の家にいるんだ?」
「?」
いや、そこで何を言ってるのかわからない、みたいな顔をされても。
「だって、私、お父さんに連れられて、何度かこの家まで来たことあるよ?」
「だから問題はそこじゃないんだって。
さっき、お前の家で別れただろ?なんで俺より先にいるんだよ。しかも家の中に。」
「あぁ。なるほど。そういう事か。うん、それは、えーと、少し、魔術を使ったからよ。」
「魔術…?お前、魔術なんて使えたか…?」
確かに、専門の魔術師じゃない一般の人間でも、簡単な魔術行使をする人がいないわけではない。
ただ、イルファが魔術を使える、なんて話は初耳だった。
「うん。ノイシェが家を出てからこっそり練習してたの。
ただ、この家の外では内緒にしてくれる?」
魔術が使える、となれば、町に何かあった際に頼られてしまう。
だからこそ、専門の魔術師以外はあまり魔術が使えることを大っぴらにはしない
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