週の終わり日曜日、街中は人間の男と魔物のカップルや番を求めて目を爛々
と輝かせる独り身の魔物によってごったがえしている。俺こと『柿川悠一』
はそんな人ごみの中を一人で歩いていた。
「まさか春日さんに幼馴染の恋人が居るなんてなあ……」
春日さんとは俺が思いを寄せていたクラスメイトだ。種族はサキュバス。
俺の通う高校でも1位2位を争う程の美貌と社交的な性格。そして親はあの
『魔王の娘』と来たもんだ。
俺は生まれつき病弱なせいで病院に籠りきりだった。その所為か、はたまた
生まれつきの運命なのかは知らないが人間関係は希薄で、友達や恋人ができた
ことは無い。その結果、卑屈な性格で、プライドだけは人並み以上に高い
最低な人間として生きることになってしまった。
周りから一目置かれるような人間になりたかった。だからあの娘と付き合えば
俺もこの状況から変われるんじゃないかと思い、告白をしてみたんだ……まあ
見事に玉砕してしまったんだけど。
その結果
「貴方……相当歪んでるわね。私にはどうすることも出来ないくらい精神が
摩耗してる、お医者さんに行ったほうがいいかもしれないわ」
なんていう屈辱的な言葉を吐かれた。まさか人格の否定までされるとは
何が『魔物は人の心に敏感で心優しい』だ。結局どんな世界にいたとしても
俺のような人間は報われない。永遠に救われない人間はどうすることもできない。
「そこで一人で歩いている冴えない顔のキミ!」
何者かの声が聞こえたと思うと後ろから
ガシッ
っと肩を掴まれる。こんな人ごみの中で目立つような事はされたくないが、
このまま無視し続ければ何をされるかわからない。さりげなく罵倒まで
されたけれど、俺は声の主に顔を向ける。
「柿川悠一君だね。私は『エルヴィーラ=ハインヴェッタ』。
エルヴィと呼んでくれ。」
俺の目の前に居た女性は、青白い肌をしたどこか退廃的な女性だった。
白いというよりは銀色に近い髪の毛に、じっとりと睨み据えるような三白眼。
身体の方はゆったりとした黒いローブを着こんでいるので体格までは分からない。
線の細いような印象を持つ美人だった。
「あ……え……な、なんで名前を知ってるんですか……」
「春日嬢から話を聞いた。私はちょいと人の精神の研究『も』していてね。
悠一君があまりにも精神的に参っていると聞いて魔界から来たんだが……」
「来たんだが……なんですか?」
「あまりにも重体すぎる、このまま放っておけば自ら命を絶つ可能性もありえる。
そんな事はさせるつもりは毛頭ないんでね」
エルヴィはローブからか細い腕を出し、俺を指さす。
バリバリバリッ
その瞬間、手から光のようなものが見えたかと思うと俺の背筋に電流のような
衝撃が走る。
「瞬く稲光の魔法『ジオ』……さあ眠るんだ、この電撃で。」
力を失って倒れようとした俺の体を優しく抱きしめるエルヴィ。彼女からは甘く
ほろ苦いような香りがした。
「もう少し待っていてくれ、君は必ず私が『治療』するから。」
その言葉を聞き、沈みゆく意識の中で思ったのは彼女への『哀れみ』に近い感情
だろう。彼女が俺に何をしたかなんてことは分からないが、彼女は俺を『治療』
しようとしている事は分かった。それも誰かの命令でだ。
あまりにも哀れに思える。俺のような人間に関わらなければいけなくなるなんて、
面倒で苦痛な物だろう……そう思いながら
俺の意識はブラックアウトした。
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