夜の帳がうっすらと町を包んでいく夕方の時間。暗くなっていく
空は光と共に昼間の暑さを吸い取ってくれる。涼しさと静かさが
混在するこの時間が俺は好きだ。
俺こと木林森夫は、この日の業務を終えて帰路についていた。
勤めているのは地元の小さな雑貨屋で、この日も何事もなく仕事を
片付けることが出来た。
実家暮らしだがきちんと収入を得られる。法律さえ守っていれば
何かに怯えて暮らさずに何事もなく毎日を過ごしていける、
そのことが俺にとって幸せだった。
枯れているって?そんなこと知りません。
バス停の前に立ち、時間を見るために携帯の電源を入れる。
時刻は午前6時頃。次のバスはおよそ15分後か……。
ふと今日の日付に目が行く。
「ああそうだ、今日は俺の誕生日だったっけ。年取ってくと
誕生日もあんまりうれしく」
「スタァァーップ!!! 木林森夫だな?貴様は包囲されている!」
急に甲高い声が聞こえてくる。始めはいきなりの事に思考が
フリーズしていたが、しばらく時間をかけて言葉が俺に向けられて
いることが確認できた。
「はい?えーと、アンタ誰?」
「おっそい!反応が遅いのだ!私の名前はキフィ=ネフェルティティ。
貴様は『性行法第23条 21歳以上の童貞保持禁止』の違反者なのだ!」
俺に言葉を投げかけてきているのは紫色の肌をしたスーツの少女だった。
年齢は17歳ほどだろうか?少しばかり危なっかしい雰囲気がする若々しい
娘だ。上半身は人型だが、下半身は光沢のある黒い鱗に覆われた
蛇の体がある。この人は「魔物娘」という人達だろう。
去年の春あたりのこの国に突如やってきた友好的な侵略者。
始めは彼女たちの存在に拒否反応を示す者たちもいたが、数週間で陥落
させられていた。
俺は彼女たちの存在を見て、昔に見た特撮の「友好的に見せかけておいて
実は人間を自分達の道具にしようとしていた宇宙人」を思い出してしまう。
今まで彼女らに出会ったことが無かった事もあり、くだらない理由とは
思うが彼女たちのことを正直怖いと感じていた。
「何を考え込んでいる!……もしかして貴様、童貞じゃない?」
「えっ、童貞?まあそうだけど」
「やっぱりそうか!言質は取ったぞ……えへへ…」
「え?」
彼女の目が一瞬光る。それを目にした途端に全身が石のように固くなり
身動きが取れなくなった。
「『パララアイ』……さながら蛇に睨まれたカエルといった感じだな
さあ皆、この男を署まで連行するのだ!」
「は〜い すべてはわれらがおうのために〜」
包帯でぐるぐる巻きにされた女たちが近くに止められていた黒塗りの車
からうじゃうじゃと現われ、俺を胴上げのような形で運んでいく。
車とは違う方向へ向かって。
「えっほ、えっほ」
「車使わないのかよ!」
「みんな〜、後は任せた〜」
キフィという女は向日葵のような純粋な笑みを浮かべながら手を振っていた。
この状況じゃ無かったら惚れていたかもしれないくらいいい笑顔だ。
このタイミングで見てもアブない女にしか見えないけど。
夜闇の中、俺を含める意味不明な胴上げ集団は町にある警察署まで向かって行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は今警察の取調室に居る。なんか童貞だからという理由で捕まってしまった。
ここにいる理由も意味不明だが、今の状況は本当に意味不明だ。
「我は魔界豚のカツ丼を頼もうかな〜。貴様は何を頼む?おすすめはやっぱり
カツ丼だけど、魔界豚のメニューなら基本的になんでも取り揃えられるぞ!」
俺を攫った張本人と面を合わせて、頼む出前を選ばされていた。
「……ちょっと訳わかんないっすね。」
「これからお前には採決が下されるのだ。精え……体力をつけて貰わんと困る」
「体力が必要な法廷?」
「出前を頼んでから話すぞ。いいから選べ!」
「それじゃあ……この焼豚マシマシ麺で」
俺はあまりにも連続する異常事態によって感覚がマヒしてしまい、おとなしく
彼女の言う事を聞いた。
「わかったぞ!」
そう言うとナイスタイミングでドアが開き、先ほど俺を持ち運んでいた
包帯巻きの女(マミーというらしい)が現れる。彼女はキフィに注文を書いた紙を
渡されると姿を消す。文字通り、ワープしたようにだ。
「さ〜て、お前への罰について説明するぞ!最初に言わないと混乱するからな!」
「うん、今みたいにな。」
出前が来るまでの時間を使い、キフィは俺を連れてきた理由を話す。
何でも、魔物娘達が居た世界にはもう未婚の男性など砂漠のオアシスのように
希少な存在になってしまい、この世界への侵攻を決定したのだという。
そこで番のいない男を効率よく確保し
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