何が不思議の国だ、と僕は無意識に独りごちた。
猫の耳と尻尾を生やし、胸をほとんどさらけ出しているような格好の魔物娘に言われた事を思い出しながら、ド派手で可愛らしいピンクや紫に彩られた急斜面を僕は登り続けていた。
ちらりと後ろを振り向くと、先程まで普通の道だった場所が、明らかに身体に悪そうな色合いをした極彩色の液体がゴウゴウと氾濫した河川のごとく流れている。
時折その流れの中で、楽しそうな歓声を上げつつ下流へと流されていく人間や魔物娘たちが居たが、僕はあえて見なかったことにした。
見ての通り、この国はおかしいことだらけだ。そもそも僕がなぜこの国に居るのかも良く分からない。
いつも通りに道場で剣術の稽古を終えて、いつも通りの道のりで帰宅していたにも関わらず気づけばこのめちゃくちゃな世界に放り出されていた。
初めは稽古の疲れで幻でも見ているのかと思った。それにしては見るもの触れるものに現実感がありすぎるし、たぶん違う。
次に何らかの魔物娘の仕業なのでは、と考えついたが、このヘンテコな場所に迷い混んでから恐らく既に三時間以上は経過しているし、もしそうならばとっくの昔に襲われてしまっているだろう。
分からないことを考えていても仕方ない。そこで僕はしばらく辺りを歩き回り少しでも現状の理解に努めようとしていたのだが……そんな中出会ったのが先程の猫耳魔物娘だ。彼女はチェシャ猫という種族で、ケイトと僕に名乗った。
彼女はその奇抜な見た目とは裏腹に、ここが不思議の国という土地で、僕がいた世界の常識は通用しないこと、そして幾つか気をつけておいた方がいいことを親切に教えてくれたのだった。その大半ははっきり言って何を言ってるのか理解できなかったのだが。
あらかた説明し終えると彼女はいやらしい微笑みを浮かべながら、ぼんっ、と煙と共に一瞬でどこかへと姿を消してしまった。いったい彼女は何者だったのだろうか。
それから奇妙な植物の生える森(やはりというかどの草木も極彩色の不可思議の色合いをしていた)を抜け、湖にたどり着いたと思ったら、突然その湖の水面が爆発的に盛り上がり、周囲にいた人々を呑み込んでいったのだった。
僕は命からがらその洪水から逃げおおせることに成功し、なんとか高台にまで辿り着くことが出来たのだった。
そして今に至るというわけだ。
おかしいことと言えばこれら以外にもまだある。
その、少々恥ずかしいことなのだが……湖から溢れ出たこの謎の液体が発する匂いを嗅いでから、どうも愚息の勃起が治まらないのだ。
初めは稽古や見慣れぬ土地に対する疲れによるものかと考えていたが、この液体の匂いが鼻腔を満たす度に下半身に血が集まっていくのを感じた。
着物の股間をパンパンに膨らませながら歩くのは少々難儀で、どこか独りになれるところがあれば、すぐさま抜いてしまいたい衝動に駆られ、抑えられなくなってきていた。
辺りを見渡す限り、どこにも人はいない。ならば、ここで情欲を発散してしまってもよいのではないか?そんな淫らな考えが頭をよぎる。
それは、この国の不思議な空気に充てられて今のおかしくなってしまった僕にとって、これ以上ない名案に思えた。
地面に座り込み着物をたくしあげると、下に穿いていたふんどしを脱ぎ、熱く滾った肉棒を解放する。ぶるん、と音が聞こえるような勢いで股間のそれは天を突き反り返る。へそに先端がついてしまうほど、かつてないほどにビンビンに勃起している逸物を見て、僕は思わずごくり、と喉を鳴らした。これを思いっきりしごいてしまったら、どんなに気持ちいいだろうと想像して。
いよいよ自慰を始めようと手を伸ばしたところで……僕の耳はバサバサと空気を叩く乾いた音を捉えた。鳥か何かだろうか、と顔を上げると、僕の顔に何か透明な液体が降り注いだのだった。
反射的に顔を俯かせて付いた液体を手のひらで拭き取ると、なにやら粘ついている……それは今も僕の愚息の先端からとぷとぷと滲み出ている、先走りにも似ている液体だった。
頭上に何かいる―――再び見上げた僕の目に映ったのは、この浮わついた国におよそ似つかわしくない、鱗に覆われたゴツゴツの手足と翼。トカゲを想起させる細くしなやかな物と、それぞれ口を備えた、一対のぬらりとした質感の計三本生えた尻尾。頭の横から背中の方向に伸びた四本の角は、光を照り返し妖しくも勇壮な輝きを辺りに放っていた。
その角の下では、宝石を思わせるオレンジ色の瞳が僕を射抜くような眼光を放ち……そのさらに下では、むちむちとしたチョコレート・スキンが眩しい太ももを伝って、股ぐらから流れ出した滴がこちらへ垂れてきている。
―――間違いない、彼女がケイトの言っていた、ニバンメ山の頂上に住む、竜の魔物娘。ジャバウォックだ……!
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