昔々、私達アルラウネは森の中で男を誘う甘い匂いの蜜を出し、そうしてやってきた人と関係を深めて結ばれるのが一般的でしたわ。
けれど時代は現代。人が立ち入ることのできる森はすっかり整備され、昔ながらの生活がしたい魔物娘にとっては少々生き辛い世の中になってしまいました。
「だから昔と違って、今ではアルラウネでも積極的に外に出て移動するのが主流なんですわお母様。一箇所に留まるなんて時代遅れです」
「でも心配です。ジェンナちゃん街に行ったことないでしょ。パパだってきっと許さないと思うし、配達ならいつものハニービーさん達がやってくれるんだから。わざわざジェンナちゃんが行かなくてもいいじゃない」
雨の日は雨粒が中に降り注ぐ、アルラウネにとって気持ち良い家の中、お母様と私はそれぞれの蜜をビンに入れながら話します。
私達家族はハニービーの会社と契約していて、貰ったビンがいっぱいになるまでそれぞれの蜜を入れることで生計を立てています。お母様が結婚してから、お父様の為にお金が要りようになった為始めたとのことでした。要りようになったといっても、生活に困るようになったとかではなく、記念日にプレゼントを買ったり、生活に役立つ品物を買ったりといった用途にお金は使われます。
お母様が結婚した頃、ちょうど近くに新しいハニービーの女王様がやってきたので、渡りに船だったそうです。
その女王様には私もよくお世話になっていて、泣き虫だけど頑張り屋さんというのが私の感じている印象です。何でも元々はただの働き蜂だったそうですが、結婚をしてからいろいろあって女王になれたのだとか。そして女王になれたことでそれまでいた巣を出て、支店として私達の近くに来たようです。
「ちょうどこれもそろそろいっぱいになりますし、絶好の機会だと思います。現代っ子ですもの、私だって外の世界を見てみたいです」
「でも……」
「それに、私もそろそろ年頃なんですから、結婚相手の1人くらい見つけたいですわ。先日女王様がお勧めしてくださった結婚相談所に行こうと考えております」
女王様が旦那様と出会ったきっかけとなった結婚相談所なら、きっと私にも素敵な相手が見つかるはずです。お母様を説得しながらここ数日、私の胸は期待に満ち溢れておりました。
「なにも私1人で行こうというのではありません。ちゃんとお世話をしてくださる方と行きますから」
「う〜ん」
「お母様」
「…………はぁ〜、仕方ないわね。そのかわりちゃんと連絡するのよ」
「はい。ありがとうございます」
こうして私は、初めて森を出て街へ行けることになりました。あぁ、今から胸が高鳴りますわ。
結婚したアルラウネは、旦那様の精を最大の栄養とします。しかし私のような未婚のアルラウネには、普通の植物と同じように新鮮な水と十分な日光が何よりの栄養です。
車椅子のような乗り物にちょこんと佇む私に、お付きのハニービーさんが水を注いでくれます。車椅子に乗っている鉢植えのようになっているこの格好を初めてみた時、おかしくてつい笑ってしまいましたが、今では慣れたものです。
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
「はい。家に帰るまでの間、しっかりとお世話させていただきます」
このハニービーのメイドさんは私と1番長い付き合いです。私としてはお友達になりたいと思っていますが、自分はあくまでメイドとのことで、頑なに一線引いた態度を崩そうとしません。
無事蜜の配達を終えた私は、予定通り結婚相談所に向かうことにしました。
「いらっしゃいませー、まもむす結婚相談所へようこそ〜」
受付に入ると、カウンターの端に置かれたお人形の手を振って、ハーピーの方がにこやかに挨拶してくださいました。その胸元には、首から下げられた指輪が輝いています。
「アルラウネさんとはまたまた、珍しいですね」
「あら、お客様にそんなこと言っていいのですか」
「いや〜、普段森に住んでいる方に街で会うのが珍しくてつい」
「もしかして登録できないのかしら」
「あ、いえいえ、そんなことないですよ。魔物娘ならよっぽどのことがない限りどなたでも登録歓迎です。それではさっそく手続きをしましょうか」
「お願いします」
「ではではこちらへどうぞ〜」
面談室と書かれた部屋に通されると、さっそく渡された用紙に希望を書くことにした。内容は難しいことがわからない子にも対応しているのか、自分で書くようなものではなくアンケートのような形式になっていた。
「背丈は……そうね。別にこだわりはないけれど、抱き合った時見つめあえるくらいがいいでしょうね」
順調に項目を埋めていく。とはいえ理想の男性のイメージが無いので、お父様を参考に考えていきます。
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