「お姉さま、結婚しましょう」
テーブルを挟んで向かい合って座る妹がそう言った時、ついに男に縁がなさすぎておかしくなったのかと思った。
「氷華、女同士で結婚は無理よ」
こめかみをおさえて呆れた声を出す私に、妹の氷華はきょとんとした顔になっていた。
「当たり前じゃないですか。何を言っているんですかお姉さま。もしかしてここの熱で少しおかしくなってしまったのでは」
氷華がキョロキョロと辺りを見渡す。そこでは次の撮影に向けて、スタッフさんたちが忙しく歩き回っていた。それとさっきまで使われていたストロボの熱で、確かにここは少し暑くなっている。
私達は普段モデルをしていて、それなりに人気があると自覚している。私がグラキエスで氷華が雪女なので、魔物娘向けだけじゃなく人間向けのファッション誌にも仕事の依頼が来ることがある。今はそんな仕事の1つをこなしながら休憩中というわけだ。
「今まではお仕事が忙しくて行けませんでしたけど、今度こそお休みを作って行きましょうよお姉さま」
「1人で行けばいいでしょう」
「嫌ですー、お姉さまと一緒がいいですー」
ぷぅと頬を膨らませる氷華。この子は昔からそうだ。何をするにしても私と一緒にやりたがる。この仕事だって、2人同時に声を掛けられていなければやるかやらないかは私に合わせたことだろう。
私も例に漏れず、グラキエスという種族柄男にはあまり興味がない。だから男を見つけろと言われても全然乗り気にはなれない。
氷華は雪女なので、どちらかと言えば男を強く欲するタイプの魔物娘だ。だから今回こんなことを言ってきたのは、必然だろう。むしろ今までよく我慢していたと言うべきか。
「じゃあついて行ってあげるけど、どうすればいいの」
堪忍したように言うと、氷華は目をキラキラさせた。
「あのですね、実はこの近辺に評判の結婚相談所があることがわかったんです。ですからそこへ行こうと思います」
「結婚相談所って、いきなりそんなところへ行くの。最初から結婚目当てなんて、ちょっと急すぎない」
「え、でも、お付き合いするからには結婚しますよね」
「まぁ……そう……なのかな」
「そうですよ。付き合ったけど別れたなんて話、私聞いたことないです。お姉さまだってないでしょう」
「確かにそうだけど」
「それでは決まりですね」
今から楽しみで仕方ないとばかりに、氷華は体から冷気を溢れさせた。ちょっと、あんまり出さないの。迷惑になるから。
元々趣味や遊び間隔で仕事をする魔物娘にとって、休みを取るのはごく普通のことだ。しかもそれが未来の夫を見つけるとなれば、むしろ仕事なんてしている場合じゃない。
数日後、氷華に連れられて相談所に来た私は、身だしなみをチェックされていた。
「お姉さまも私と同じキレイな髪をしていますから、凛々しさがより際立つようにポニーテールにしましょう」
櫛で私の髪を整えながら、氷華は後ろに立って私の髪を束ねていく。モデルをやっている癖にそういうところには無頓着な私がこの仕事をやれているのは、こうして氷華が世話をやいてくれているところが大きい。
「さて……と。それではお姉さま、さっそく受付に行きましょう」
満足した出来栄えになったのか、長くストレートの髪を揺らしながら氷華は私の前を先導して歩きだした。
「いらっしゃいま……お、おおぉ」
受付にいたハーピーの子が発した第一声はそれだった。
「もしかしてもしかして、あのフローズン姉妹ですか」
「はい」
「そうだけど」
ファンが好きな芸能人に会えた時のような反応をしたその子は、手に持っていた雑誌を広げて私達に見せてきた。そこにはこの前の撮影で撮られた私達の写真があった。
「まさかちょうど読んでいた雑誌のお二人に会えるなんて、私感激です」
「あ、ありがとう」
「結婚しているっていうお話は耳にしたことがなかったのですが、まだお相手がいなかったんですね」
「仕事が忙しかったもので」
さすがに騒ぎになるのは避けたらしく、少し声を落としてハーピーの子は話しかけてくる。周りの皆に私達のことがバレたとしても、ここは熱心に相手を探している魔物娘ばかりなので大きな騒ぎにはならないと思う。だけどそういった配慮は嬉しい。
「それでは希望する条件の記載など、やって欲しいことがありますので、別室までご案内ささていただきますね」
「あ、それなんですけど、お姉さまと2人一緒でも構わないでしょうか」
「構いませんよ。もしかして2人で1人の方を夫にしたいとのことですかね」
「いけませんか」
「いえいえ、別に珍しいことではありませんよ」
にこやかな笑顔で別室に案内されると、あの子は受付担当なのか、しばらくして戻っていった
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