私はビオラ。普段はこのお屋敷で働いているハニービーです。他にも働いている子はたくさんいて、私はその245番目。名札にも『ビオラ。245/たくさん』って書いてあります。今日は私に起こったとっても大きくて幸せなできごとを皆さんにお伝えしようと思います。
「そろそろわたくしも、伴侶となる夫が欲しいですわ」
きっかけは女王様が優雅に椅子に座っておやつを食べながら言ったその一言でした。ぽつりと放たれたその一言で、たまたまお世話当番だった私の他10人に、新しい出逢いのチャンスが与えられることになったのです。
女王様は居住まいを正すと、おかわりの紅茶を後ろに控えさせた子に注がせながら言います。
「良いですかお前たち。これから各自自由に動いて、わたくしの夫となるに相応しい方を連れて来るのです」
「それは良いですけど女王様。どういった人を連れて来れば良いですか」
「そうですわね……あなた達がそれぞれ好みだと思う殿方を連れてきなさい。その方がおもしろそうですわ」
「わ、わかりました」
じゃあ解散と、女王様の号令で皆思い思いに探しに行ってしまいました。私も例外ではありません。女王様のお部屋を出て、吹き抜けになっているお屋敷内を通って3階から1階に降ります。
「あら、皆さん急いで出て行きましたけれど、お嬢様から何か言いつけられたのですか」
「あっ、メイド長さん」
私が玄関から外に出ようとすると、後ろからキキーモラのメイド長さんが話しかけてきた。この人は私達ハニービーにメイドとしての振る舞いや働きを教えてくれる人で、女王様が呼んできた人です。私もお世話になっています。
「そうなんです。これから皆で女王様の夫探しに行くんですよ。私好みの人を連れて来いって言われちゃいました」
「まぁ、それはそれは……なるほど。さすがはお嬢様ですね」
好みの人を連れてきて良いというところでつい笑みが出てしまった私に対して、メイド長は笑みを浮かべています。
「それじゃ、いってきます」
「はい。今日の仕事は誰かに代わって貰うよう手配しておきますので、心配せずに行ってきてください」
一礼するメイド長を背に、私は浮かれた気分でお屋敷を後にしました。
黄色くて大きな窓が目立つお屋敷を出て振り返ると、私と同じフレンチスタイルのメイド服を着たハニービーの子達が、忙しそうに飛び回っています。常に男の人を誘惑できるようにとミニになっているスカートをたなびかせ、お屋敷の後ろにある蜂蜜工場に向かって飛んでいるのです。
女王様は羽新製蜜という会社を経営されていて、現代における世界蜂蜜シェアトップ3に入る程の凄いお方なのです。工場では交代で私達働き蜂の子が、日夜新たな配合を研究したり、商品を量産したりしています。労働環境はとてもきれいらしく、メイド長が初めてここに来た時感激していたのを覚えています。
メイド長に教わったようにスカートの裾を両手で掴み恭しくお屋敷に向かって一礼すると、私は元気よく外へ飛んでいきました。
「とはいえ、なかなか良い男の人がいませんねぇ」
街に出て女王様の夫探しを始めたは良いのですが、誰もかれもが恋人連ればかりです。2階建の屋根に座って足をブラブラさせながら眺めているんですが、見つかる気配がありません。今日は土曜日なので、こんな昼間から探しても誰かいるだろうと思っていた私が甘かったです。しかもうっかりお財布を忘れてきてしまったので、空いた小腹を何とかすることができません。お腹すきました。
「おやや。もしかしてあなた、男漁りですか」
「えっ」
急に声をかけられ上を見上げると、そこにはスーツをしっかりと着たハーピーのお姉さんがいました。
「あはは。そうなんですけど、男の人が全然見つけられなくて……しかも誰でも良いわけでもなくてですね」
「なるほど。でしたら私と一緒にあのビルに行きませんか。実は私、あそこにある結婚相談所の職員なんですよ」
「そうなんですかっ」
「はい。ですから条件にもよりますが、お力になれると思いますよ」
「わかりました。ぜひお願いします」
元気よく返事をしたと同時に私のお腹がクゥと鳴って、ちょっと恥ずかしかったです。
「ようこそ、まもむす結婚相談所へ」
ハーピーのお姉さんに連れてこられたそこは、綺麗な施設でした。柔らかそうな絨毯とよく消臭された空気。置いてあるテーブルや受付のカウンターには塵一つありません。もし私がこれ程綺麗にお掃除ができたら、メイド長はきっと私の頭をたくさん撫でてくれるに違いありません。
「よ、よろしくお願いします」
「はい。ではまずこの用紙に、希望する男性のことを記入して下さいね」
受付カウンターの下から用紙を出すと、ハーピーのお姉さんは笑顔で促してきました。
好きな
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