まもむす相談所-運のなかったラミア-

「はぁ〜」

 今日もダメだったなぁ…と思いながら、私はいつもの場所で丸テーブルに突っ伏して深いため息を吐いた。

「はい今1つ逃げた。旦那さん候補が1人逃げたよ」

「……はぁ〜」

 受付にいるハーピーの子に言葉を返す余裕も今の私にはなかった。だって仕方ない。今月これで3度目だもの。今更ため息1つで旦那様候補が1人逃げるジンクスなんて言われたって、どうにでもなれという気分だった。

「アーミンさん、相当まいっていますねー。さすがに今月3人にもなればそうなりますか」

「そうなのよぉ……私ってば、ちょっとタイミング悪すぎなんじゃないかしら」

「確かにそんな気はしますねー。何というかこう、ある種運命的な? 今はまだその時ではない的な?」

「そうは言うけどねぇ。私はいつ来るのかわからない彼よりも、今手の届く彼をモノにしたいわけよ」

 顔だけハーピーの子へ向けて、私は気落ちした声で話す。

私が今いる場所は、結婚相談所だった。魔物娘と人間の男性をマッチングさせる、魔物娘の積極性をもってすれば必要ないのではと囁かれる場所だ。ただ何かと忙しい現代社会において、少しでも理想の彼を見つける可能性を増やそうとする魔物娘は多く、私もその1人だった。

「やっぱりただのラミアっていうのは、インパクトに欠けるのかしら」

 尻尾の先をブラブラ遊ばせていた私は、手元にあったパンフレットを手に取って眺める。ここへ訪れた男性向けになるべく性欲を刺激するよう作られているそれは、魔物娘から見ても納得の完成度だった。

 カマイタチの子は無邪気な仕草で3倍の快感をアピールしているし、サハギンの子は庇護欲と性欲をそそられるポーズをしている。一方でデーモンやサテュロスといったお姉さん勢は、大人の魅力全開で男性を悩殺しにかかっていた。

「私が思うにですね、アーミンさんはがっつきすぎなんですよ。昔じゃないんですから、もっとゆっくり関係を深めていくことを覚えないといけません」

「えー。魔物娘がガンガンいかなくてどうするのよ。旦那様と結ばれないじゃない」

「でも正直、アーミンさんうちで失敗の記録保持者ですよ? 他の方は皆、多くても3回目のマッチングではゴールインされてますもん」

「うっ……だ、だって仕方ないじゃない」

 私は今までここで紹介された男性達とのできごとを思い出して苦い顔になった。因みに今までマッチングに成功しなかった数は6回…泣きたい。

ちなみに今月の成果としては、こんな感じだ。

 1人目の時は、紹介所の伝達ミスで私がラミアだと知らない男がやってきた。私がラミアだとわかるやいなや、怯えた顔をして逃げ出したのを今でも覚えている。そして逃げてる途中でぶつかったホルスタウロスの子と結ばれたのを覚えている。

 2人目の時は、ラミア種でも年下ツンデレメドゥーサ希望の男だった。いや、そこまで希望がはっきりしてるならちゃんと紹介しなさいよと思った。そして案の定、男の希望する子が見つかってそっちへ行ってしまった。

 3人目の時は、ラミア種にあまり知識がない男だった。「俺はいろんな魔物娘の娘に囲まれて暮らしたいんだ。ラミア種ならそれができるんだろ」とか言っていたので、たまたま出ていた超レアなエキドナさんを紹介してあげた。

 魔物娘でこんなに失敗続きなのは、やっぱり自分だけなのかもしれない。そう思うとどんどん憂鬱になっていった。というか、やっぱり蛇プラスアルファが無いと弱いのかしら。

「あの……すみません」

 男だ! 私はさっきまでだらけていた背筋をピンと伸ばした。入り口に背を向けて座っていたから、どんな男かはわからないけど、自然と期待に胸が膨らんでしまう。

「申請をしたいんですけど、ここって違いますよね」

「申請ですか! いいえ、何も違いませんよ。ささっ、こちらへどうぞどうぞ」

「えっ!? でもここって結婚相談所ですよね。僕がしたいのは違う申請なんですけど」

「ですから申請ですよね? 大丈夫、こちらへこちらへ」

 魔物娘らしい強引さで、ハーピーの子は男を素早く案内していった。羽を大きく広げることで出入り口を塞ぎ、見事に退路を絶っていた。

 あの子が案内している間、私の頭はあの人を紹介所してもらうことでいっぱいだった。どんな人なんだろう。声の感じから、少し頼りなさそうな印象を受けたけど。今からトイレに行って、お化粧を直してきた方がいいわね。第一印象が大丈夫だもの。

 この結婚相談所は、ビルの中にある。だから彼が行きたかったのは違う場所で、そこへいく道を教えて欲しかったのだろう。だから偶然、そう偶然ここにいた私が案内してあげてもなんら不自然なことはない。

「あ、アーミンさんちょうどよかった。さっきの彼、
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