第二話

木から落下する、鳥の巣にしては大きくて、熊にしては小さすぎる二つの影。
「うわぁああああああ!」「にゃあああああああ!」
それが俺の大切な二人だと気付いた時には、俺は斧を投げ捨てて走り出していた。
幸い二人は隣り合ってたらしく落ちる場所は近い。
間に合えば、二人ともキャッチできる。
とはいえ、本気で走っても追い付くかどうかの距離だ。
けど、どうにか間に合わせたい。
片方助けるだけじゃ不十分だ、二人とも助けなくちゃ意味がない。
走り、走り、走る。
あとちょっと、だが立ったままじゃとどかないとこまで来てると判断した俺は両手を前に出して滑り込むような体勢で二人の下に飛び込んだ。
その一瞬、スローモーションの視界の中。
二人はいきなり体を反転させて体勢を取り戻し、
驚愕に目を見開いたであろう俺の目にシェンリの足が映る。
柔らかそうな肉球が見える。
そういやこいつらワーキャットだっけ……
大変な事実を見落としていたことに今更ながら気づいた。
俺の助けなんて元から必要ないじゃないか。
ワーキャットはある程度以内なら高いところから落とされても自力で体勢を立て直して着地することができる。そんな彼女らと共にいる人間ならだれでも知っているであろう基本的な知識を、俺は見落としていた。
そして、
ぶみゅぶみゅ
思いっきり頭をシェンリに踏まれた、そしてクリムに背中を踏まれた。
「あ〜………」「にゃ〜〜……」
俺の上で姉妹はそんな声を出す。
必死に走った俺って何だったんだろうね。
そんな風に思いながら、俺は気付かれないように涙を流した。
人が必死で助けようと頑張ったのを無駄にしやがって……
お門違いな気がしなくもない怒りを噛みしめながら、俺は気を失った。


目覚めたのは、施療院のベッドの上だった。
隣に猫姉妹が座っている。
「俺は?」
「起きた、クリム。先生呼んできて。」
「にゃぁ。」
シェンリの指示を受けたクリムはすぐに部屋を出ていく。
「色々質問があるんだがそのうちお前はどれだけ答えられる?」
「答えられる限りは答える。」
はっきりと返事をくれる。
「まず一つ目、お前ら二人はどうしてあんなところにいた?」
考えてみれば妙な話だ、あの時間帯なら二人はバイト先で働いているはずだし、それ以上に木の上に登っていることなど考えづらい。
「……謝りたかった、朝のこと。」
「恋人云々のことか。」
ネリスに恋人ができて、それと差をつけられるのが嫌だから俺に恋人になってほしいと言った、それどころか下着姿で俺のベッドにもぐりこんでいた。
「あの言い方は最悪だった。うちもそれ自覚してる。」
「他に理由があるみたいな言い方だな。」
「そっちは……まだ言えない……」
理由があると自分で白状した。
まぁ、追求するのはよしておくか。
「それで俺の様子を木の上から探ってたのか。」
今度は声を出さずに頷く。
せめて物陰にしてくれたら俺も楽だったのに。
「次の質問、どうして俺はここにいる?」
「うちらに踏まれて気を失ってたから連れてきた、先生は脳震盪だって。あとダニエルも一緒、ランスの投げた斧で足切ったとかいってた。」
あ〜……そう言えば斧に掛けた魔術解除しないまま放り投げてたな俺。
「おうランス、死んでしまうとは」
「死んでねぇよ。」
施療院の院長、フレッド先生。
父さんと同様クルツ立領計画が始まる前から俺の祖父、初代クロードと一緒に行動していた男性で、元神父。
回復魔術の心得と医療の心得があるから施療院の院長なんかしてる。
魔物の生態にも詳しくて、クルツ住民全員の健康状態を把握している。
頼りになるようでたまに真顔でふざけたことを言う要注意人物。
「とっさのボケに反応して即突っ込み、うん元気じゃな。」
「ランスは頑丈、うちらが踏んでも壊れない。」
「怪我しないじゃないのかそれ?」
壊れないってまるで俺が物みたいな言い方じゃないか。
「ところでクリムは?」
「あ〜……」
「ここにいる。」
クリムを引き連れて入ってきたのは魔物の女性。
金色の髪、空色の瞳。
クリム同様それほど高くない身長に幼い顔立ち、羽根と同じく白い衣。
誰が見ても彼女はそれである。
天使。
「ツィリア……さん……」
俺は恐怖と共にその名を呟く。
この人はマジで怖い、どれくらい怖いって怒った父さんと同じくらい怖い。
天使と言っても教会の教えに忠実というわけじゃなく、かつてルミネさんと戦い負けて魔物の魔力を流し込まれた結果半ば堕天して、性に関してかなりおおらかで魔物に対する敵意もない。
クルツの「ツ」は彼女の名前から取っている。
このクルツ自治領の司法を守る、恐怖の執行者。
「ランスに言い渡すことがあってきた。」
幼い顔立ちに似合わず、この人の声には強い迫力が宿る。
この人が直接言いに来るってことは確実に何らかの処分が
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