「今日の仕事はこれで終了。お疲れ様です。」
「お疲れさまでした、棟梁。」
俺の合図と共に、作業していた男たちは作業を終える。
木を伐り出すための斧を倉庫に片づけ、全員分あることを確認してから倉庫から出る。
俺の仕事場は、分り易く言えば森だ。
クルツ自治領南部開発局。
俺たちの住むクルツ自治領を南に向かって広げていくために木を伐り出して切り株を引っこ抜き、人家を作ることのできるようなスペースを確保するのが今の仕事になっている。
棟梁と呼ばれてるのは、俺が局員(と言ってもだいたい樵みたいなもんだが)たちのまとめ役の仕事をしてるからだ。
局員の大半は人間で、二十代から三十代の働き盛りで体力のある人が多い。
そこにまとめ役としてまだ十代の俺が現場に行き彼らの気分を害さないかと不安になったんだが、結構普通に受け入れてくれた。
というか、言っては悪いが気がいいけど良くも悪くもバカな人ばっかりで、誰かがまとめないと同じようなことで空回りを繰り返すんだ。
始めて行ったとき、伐り倒した木に数人が下敷きにされてた時はさすがにひいた。
だから父さんも俺をここに送ってきたのかもしれないな。
局員の多くは森の近くに出した木材で作った仮設の寄宿舎で暮らしてるんだけど、俺は森の近所にある知り合いの家に宿を借りてる。
「ただいま帰りました。」
「おうランス君、お帰り。」
アレミネルさんと、ワーキャットのルーティさん夫妻。
この夫妻は娘が二人いるから「魔物の母は三人以上の子を持たないよう気をつける」の努力義務規定に従い性交渉こそあるが避妊措置は取っている。
「シェンリとクリムは?」
夫妻の娘たちが、シェンリとクリム。
灰毛の姉シェンリと、黄毛の妹クリムの仲良し姉妹。
俺とは幼いころから良く会話する仲で、彼女らの縁があってアレミネルさん宅にお邪魔させてもらっている。
「ネリスちゃんの恋人を見に行くとかで家を出たよ。」
「あのネリスに恋人が?」
魔物の領主の娘、サキュバスのネリス。
愛する男性以外には死にかけない限り体を許さないことで有名。サキュバスには珍しく内気で奥手、その上魔物の領主という簡単には手が出せない立場にあるため、憧れる人はいても一人を除き彼女に近づく男性はいなかった。
唯一の一人が、俺の双子の兄ロナルド。
とにかくキザで妄想狂、父さんや母さんみたいなまじめである程度常識も持ち合わせてる親からどうしてあんな変態が生まれたのか不思議でならない。
見張る意味も合わせて父さんは自分の助手として置いてるけど、仕事もできない。
「外界から連れてきたみたいだね。結構いい男みたいだよ。」
外界というのはクルツ自治領の外のこと、このクルツでは外をさす言葉として日常的に使われる。
「よく知ってますね。」
「ライアが報せに来てくれたんだ。」
「あぁ……」
荷運びのライア。
とにかく迅速に荷物を届けてくれるミノタウロスで、かなり重いものも普通に運搬できるから頼りにされてるけど、前に街中で暴走して少年をぶっ飛ばしたとかで厳重注意をされてた。
荷運びの仕事がらか情報通で、色んな情報を持ってたりする。
とはいえ、走ってるとき以外は喰うか寝るか誰かと交わるかの三択。
自分に興味があること以外で積極的に動こうとすることはない。
あまりないとか少ないじゃなくて「ない」
「夕食は要らないそうだし、用意は終わってるから食べてしまおう。」
「はい。」
この家で夕食の用意をするのはアレミネルさんの仕事だ。
夕食の用意だけではなく家事全般がアレミネルさんの仕事で、ルーティさんは近くの果樹園で普段は夫と一緒に働いている。
夕食が終わり、風呂にも入り俺は自分に用意された部屋のベッドで寝る。
悪夢を見た。
灰毛と黄毛の俺を丸のみにできそうなほど大きな猫が、俺を追いかけて来る。
必死で逃げる俺だったが、いかんせん体の大きさの差はそのまま速さの差につながるわけだ、あっさりつかまり、俺は灰毛の前足に押さえつけられる。
必死で抵抗した俺に向かって
「逃げても無駄よ。」
「そうにゃ〜、おとなしく食われるにゃ〜」
猫たちが俺に語りかけて来る。
聞き覚えのあるその声に俺が恐る恐る振り返ると、
そこには俺よりはるかに大きなシェンリとクリムの顔があった。
俺はこいつらから逃げられない。
どんなに必死に逃げたとしても。
どんなに俺が抵抗したとしても。
逃げられない。
にげられない。
ニゲラレナイ
俺はこいつらから一生自由になれない
一生自由になれない
イッショウジユウニナレナイ……
そうして俺は檻に閉じ込められた。
満足したような笑顔で、二人は俺のことを見つめて来る。
ああ、終わった……
目を覚ますと、俺は檻の中にはいなかった。
ただし、俺一人でベッドに寝転がっていたわけではない。
猫姉妹が一緒だ。
なぜか俺のベ
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