第二十七話 如月とコウモリ男爵

私たち王女軍に協力すると一方的に使者を送ってきて勝手に戦闘に参加したウォード領主のウォーダー男爵ゲラルは、戦闘に決着がつくとすぐに姫様との対談を申し込んできた。
姫様の側近であるはずのリィレさんと私の二人すらも姫様と同行することを拒否され、ゲラルは姫様と二人きりで幕舎の中に入ってしまった。
私とリィレさんは幕舎の外で待たされて、隣にはゲラルの護衛だった男数人が、こっちをじろじろ見ながらたむろしている。それだけでも不愉快なのに、わざわざ分けた王女軍の駐留地まで入り込んできていることがより不快に感じられた。
「不愉快だ………苛々する。」
ウォードの連中に気付かれないようにリィレさんが呟く。さっきから苛立ちを示すようにそこそこ大きな胸の前で組んだ右手の人差し指の先が、金属製の胸当てをコツコツと叩いている音が聞こえる。
「………なんか、兵の様子から察するにあんまりまともな人じゃなさそうですよね。」
ゲラルの抱え込んでいた兵士はあまり「行儀がよくなさそうな」人が多い。
正直なところ、さっきからこっちを見ている兵士も「戦士としてどうか」なんて視線じゃなく「性欲のはけ口としてどうか」という意味合いの方が強い。
「まともな男ではないな、『コウモリ男爵』で知られるウォードのゲラル。危機が迫れば躊躇なく裏切り、決して敗北する軍勢には最後まで味方しない男だ。」
「………味方としていられた方が迷惑じゃありません?」
「正直なところその通りだ……敵として打ち倒せた方がよほど良かった。」
寄って来られないようある程度の距離を保ちながら、姫様が出てくるのを待つ。
じろじろ私たちを視姦する男たちも嫌だけれど、かといって姫様をこの集団の中に置いてここを去っていくのはもっと嫌だ。
さらに五分ほど視姦に耐えながら待っていたところで、ようやく疲れた顔の姫様が出てきた。その後ろには何やら不服そうな表情のゲラルがついてきている。
「お疲れ様です。」
「………はい、とても疲れました。リィレ、確かこの近くに川がありましたよね?」
「ありましたね、水浴びなさいますか?」
姫様が黙って首を縦に振ると、リィレさんはすぐに姫様の衣服などが入った箱の置いてある幕舎に向かって走って行った。残された私は姫様を連れて川に向かう。
駐屯地から少し離れたところにある小さな川、近くには誰もいないけれど私は見張りとして剣を持ってここで待機することにした。
姫様は細い指で服をスルスルと脱いでいく、そしてついに下着姿になった瞬間、近くの茂みから葉擦れの音が聞こえた。
「っ!? 誰ですか!?」
剣を抜きながらできる限り早く距離を詰め、物音をした茂みに向かって切りかかる。
その瞬間茂みから男が飛び出し、私の剣戟をかすめながらも、急いで走り去っていく、顔を見た覚えもないからたぶんクルツ軍や民兵じゃなくて、あれはゲラルの兵だ。
「ああもう、逃げ足の速い!」
あっという間にゲラルの駐屯地の中まで逃げ込んでしまう、迂闊に入ったら面倒なことになりそうだし姫様一人残してほかの不審者に襲われてもまずいので追いかけはしないけど、まさか覗きなんてするとは思わなかった。
「この分だと、駐屯地の方でも絶対何かトラブルになってるよなぁ………」
「………そうですね。」
私の独り言に姫様が明らかに落ち込んだ顔で相槌を打つ。
女性に何かされて騒ぎになるだけならまだいいけど、それを理由にゲラルがまた何かケチをつけてきそうでそれが拙い。それにこの軍において姫様の不信感が高まることはそれだけ軍の崩壊の危険が大きくなることだから、それも避けたい。
「……どうされました?」
リィレさんが衣装の入った鞄と数本の仕切りを作るための棒と布のセットを持って駐屯地から歩いてきた、さっき逃げた男には気付かなかったみたいだけれど私たちの様子がおかしいことには気付いたみたいだ。
「覗きですよ、姫様の水浴びを見ようとしていた不埒者に逃げられました。」
「……」
リィレさんが無言のまま私の襟首をつかむ、目に怒りの炎を宿らせて、やはり何も言わないままに「どうしてもっと辺りを警戒しない」と目が訴えてくる。
「すいません! 迂闊でした!!」
「キサラギさんを叱る前にやることがありますよね? リィレ。」
リィレさんは姫の言葉に従って私を解放するといそいそと仮設の水浴び場を設置する用意を始める。すぐに私も手伝うけれど、ある意味もう手遅れな気もする。
設置が完了したことを姫様が認めると、今度こそいそいそと下着まで脱いで裸になる。
やっぱり綺麗な白い肌をしていて、少しボリュームが足りない気がしなくもない体もそれはそれであでやかな魅力を持っているように見える。
どこから取り出したのか桶を片手に、姫様は自分の体に水をかける。
ただそれだけの動作があまりに優雅で綺麗だから、見入ってし
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33