「向かう先はまっすぐ北か。」
隣に立った吹雪が、再確認するように呟く。
「偵察に行ったリオント伯の報告では北にはそう遠くないところにベルク領主の軍がいるらしいね。レジスタンスとベルク軍を挟撃できれば最良、最悪のパターンは他にベルトラ平原を領地に持つほかの二領、ウォードとケナンがベルク軍に合流して僕たちを待ち伏せていること。」
今朝出発するときに姫様から教えられた情報を再確認して、吹雪や近くにいる天満に伝える。二人も聞いてたとは思うけどどれだけ覚えてるのかは怪しい。
「その可能性が一番高いんじゃないか?」
吹雪は落ち着いてそう言ったけど、やっぱり話をあんまり聞いてなかったんだと確信できた。その点に関する説明もしっかりしてただろう。
「ほとんどないって姫様は言ってたよ、ウォード、ケナン、ベルク、あと僕たちが落としたマズートは何度も利益関係や領地の対立で小競り合いを続けてきたから、連携を可能にできるような信頼関係がほぼないみたいだし。そもそも個人利益に目を取られた貴族がその利益を他に譲る危険を冒すとは考えづらい。」
そんなことを何度か言われた、信頼関係がないとはいえ有事には手を組むくらいが理性的と僕は思うけど、人の感情なんてそんなに簡単にまとまるものじゃないし、手を組むことはないと考えていいんだろう。
「「ふーん。」」
「………覚えときなよ、一応重要な情報なんだからさ。」
吹雪と天満がほとんど同時に出した感心の音に、呆れながらも僕は突っ込む。
そこらへんはこの二人らしいと言えばこの二人らしい気がしなくもないけど。
「悪い悪い、戦闘技術のこと考えてたらほかがあんまり頭に入ってこなくてな。」
「昊と次はどんなふうにしようか迷ってて……」
吹雪は強くなることに一生懸命だし天満は天満でもう個人的な欲望が全開。
「これより進軍を開始する! ここから先は戦場だ、気を抜くなよ!」
雑談している僕たちをほんの一瞬だけ睨んでからリィレさんが大きな声で号令を出す。
姫様と、どこか疲れた顔の如月も一緒だ。
それと同時に進軍が始まる、敵に衝突する前まではあまり走ったりはせずに周囲を警戒しながらゆっくり進軍するのが常だったから、今回もそんな感じだ。
ただ、当初からリオネイの騎馬部隊は本隊とは別行動、偵察をして敵を発見したときにこっちに合図をしてもらうために、草原のあちこちを隠れて移動しているはずだ。
「ところで昊。」
隣を歩く吹雪が声をかけてきた。
「何?」
「お前は、姫さんのことを怪しいって思ったか?」
本当にいきなり、しかも戦場でするのが好ましいとは到底思えないような質問を吹雪が浴びせてきた。
「思ってたよ、姫様っていうよりも、この戦争の前提から怪しかった。」
いきなり何を言い出すんだと思ったが、別に隠し立てをする必要も特にないと考えて口を開く、誰でも薄々感じ取れそうなことだからだ。
同じことを吹雪も薄々感づいてたんだろう「やっぱりか……」と小さな声で呟いてから、わけのわからない顔をしてるハートを振り向くと、
「腑に落ちないことがあるんだよ、お前は気づかなかっただろうけど。」
そんな風に言って見せた、まぁハートは見てればわかるほど単細胞の単純馬鹿だからあんまり疑問に思えなくても仕方ないかもしれない。天満の方を見ると「言われてみたら」と言った感じの顔をしてるのに。
「腑に落ちないこと?」
予想通り首を傾げて見せるハート、どうやら全く疑問に思ってなかったらしい。
「上手くいきすぎてるのよ、魔法に才能がある昊がクルツに行ったこと、如月がお城に落ちたこと、あたしと吹雪はともかくこの二人はあんまりにもお姫様に都合が良すぎる。」
天満はそんな風に言い切った、言われてやっと気づいた感じだけど、それでも一番気になる部分は理解ができてるみたいだ。
「そこも確かに都合がいいけど、そもそもクロードさんと先代国王の出会いも偶然と考えるには無理があるんだよね。」
明らかにクロードさんの足跡をつかんで動いたとしか思えないような出会い。
「姫様はこの戦争にかかわる重要な内容を隠してる。言うのを忘れるくらいあのお姫様が迂闊だとは思えないし、僕たちが気づかないと思ってるくらい呑気だとも思えない。意図して隠してるんだよね、気づくこと前提で。」
その理由までは分からないけど、少なくとも用心しておいていいのかもしれない。
そう思いながら歩いていると、前を行く集団から声が上がる、何かと思って前を見てみると前方やや右の方向から赤い服を着た騎馬兵がこっちに向かってくるのが見えた。
リオント伯ナンナ率いる赤騎士団の団員だ。
そして、その背後かなり遠いところから敵の兵団が向かってくるのが見える。
旗や大盾に書かれているのは菱形と三角を組み合わせたような紋章、教えられていたベルク軍の紋章と一致している。
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録