あっという間に一カ月が経過して、宣戦の日。
「拡声魔法、一から三まで魔法陣展開、固定。」
魔術書を開いた僕の左斜め前方向に一つずつ等間隔で魔法陣が発生して、そしてその場の地面に吸い付くように徐々に固定される。その間五分ほど。
王国全域にまで声を広げようと思うとそれだけでも魔法陣の用意と発動にかなり時間がかかる、三十分ぐらい構築完了にはかかるんじゃないだろうか。
「よくわからんのだが、こんな風に国全体に通達する必要とかあんのか? そんな面倒なことせずに電撃戦挑んで一気に潰してやればいいんじゃないのかよ。」
隣でヤンキー座りで僕の様子を見ていた吹雪がそんなことを言う、天満は電撃戦の意味がよくわかっていないらしく首を傾げてる。
吹雪と一緒にクルツに来た魔物の二人はまだ準備に手間取っているらしい。
「いや、クルツ人も僕たちも並みの兵士よりはずっと強いけど、それでも敵の方が圧倒的に数は多い、一気に攻勢に出たところでクルツ軍は外での戦いはほぼ初めてだってこともあるし、一気に潰すには不利があるよ。」
そうでなかったら僕もこんなことはしていない自信があるしそれに姫様だってわざわざ宣戦布告して敵がいることを伝えようとも思わなかっただろう、まだまだ理由はある。
「それに姫様の味方はクルツ軍や僕たちだけじゃない、リオネイ軍もそのうち協力に馳せ参じてくれるだろうし、それに一度は敗走してるとはいえ王国にはまだレジスタンスや味方の騎士団の生き残りが潜伏してる。戦意が完全になくなってないなら、彼らも呼応して動いてくれるはずだよ。」
どれだけの数になるかはわからないけれどそれでも敵軍の半分に頭数だけでも揃えばいい方だろう、その中で戦力がどれだけになるのかも不明。
不確定要素は多すぎるくらい多いけど、でもどうにかできる可能性がある分ましだと思う。
「起動、四から六まで展開固定。」
等間隔で三つの魔法陣が発生する、これが固定できた段階で基本構築は終わりで、あとは範囲式を入力していくだけ。
「やっていらっしゃますね、昊さん。朝早くからすみません。」
動きやすそうなハーフパンツに長袖のシャツという普通の女の子のような恰好をした姫様が、リィレさんと如月を伴って僕たちのところに来た。
如月はこの世界に来た時と同じ制服姿、どうやらこれが一番落ち着くらしい。
リィレさんは服屋のトリニスタさんに新調してもらった動きやすそうな衣服に革製の軽そうな鎧の組み合わせ、防御力より機動性を重視した装備らしい。
「別にかまいませんよ、緊張してよく寝れなかったくらいですし。」
これは事実、天満と一緒に寝てたけどあんまり眠れなくって、そのあとムラムラきた天満を冷静にするために飽きるくらいキスしてたらいつのまにか朝になっていた。
人間だったころから天満は僕とキスしたがってたからなぁ。
「ところで姫さん、クルツの人たちの動きはどうなんだ?」
「どうなんでしょう?」
姫様は優雅なしぐさで首を傾げて見せた、どうやらこの人も把握していないらしい。
「そこらへんはご心配なく。」
姫様の背後から、ハロルドさんとネリスさんが姿を現した、その後ろには数十人のクルツ住民がそれぞれ戦闘に使う武具を持って、整然と列を作っている。
「クルツ軍より兵力およそ百、寡兵ではありますが王女殿下の軍に加わります。クルツ軍のまとめ役には領主の代理として僕とネリスが抜擢されました。よろしくお願いします。」
「勇者ロイドパーティがアイリさんを除き全員参加ですか、それに百と言えばクルツ軍のおよそ三分の二となりますが、大丈夫なのですか?」
並んでいる人たちを見て姫様が言う、しかしネリスさんは平然とした様子で、
「防衛には重要戦力五人がいればほぼ事足ります、それに彼らは自らの意志で志願した人々ですので、追い返すのも無粋でしょう。」
と答えた、どうやら全く心配はしていないようだ。
「……そうですか、でしたら皆さんにご同行いただきます。いきなりですが、軍師役はどなたでしょう。」
「これからの戦について、少しお話したいことがあります。キサラギさんのお友達のお三方にも出席してほしいのですが……」
「……拡声魔法、このまま放置はできないんですが……」
話を進めようとしていた姫様に言わせてもらう、ここから僕が一定以上の距離をとってしまったら、また拡声魔法は最初から組み直しだ。
「あらそうですか……では先にそちらから済ませてしまいましょうか。使えますか?」
「ええいつでも、そこの円の上に行ってください、僕が起動します。」
僕の指示したとおりに姫様は拡声魔法の中心になっている魔法円の中に行く。
「範囲式入力開始、第一正面より右に七十度、距離固定。第二正面より右に二十度、距離固定。加えて第一第二を連結。」
王国の南東部から北東部にかけてをほぼ全域カバーできる
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録