ナンナとの会合からさらに一週間、俺たちはかなり南下して、大分クルツ領域に近づいてきていた。ガラグナ領の南端にあった町からさらに南に向かっていくと、地元の猟師しか入らない山に入る。
とはいえその地元の猟師の一家は内乱によってまだ若い息子一人しか残らず、さらにその若い息子も一年ほど前に突然姿を消したのだという。
そういうわけで今ではその山に立ち入る人間はおらず、俺たちが侵入するには都合がよかった。解除された後の罠があちこちに放置してあることを考えると、どうやら行方不明になった最後の猟師は拉致されたりしたわけではなく自分の意志でいなくなったらしい。
「この森の先にクルツがあるんですよね?」
「そうらしいです……しっかし……」
ふもとの村から半日以上歩きとおしたところに、クルツの住民のための休憩や宿泊のための施設があると昊から聞いたが、そこまで本当に半日以上歩いているのにまだつかないのはどういったことだろうか。
方角を間違えているのかもしれないと思い、椎奈様から貰ったコンパスとナンナにもらった地図を確認してみる。とはいえ、現在地がわからない以上気休めでしかないわけだが。
「……気配がします、人間の男性で、結構強いです……」
英奈さんがそんなことを言い出した。
「………どっちからです?」
「あちら……一人ですが油断ならない相手ですよ。」
英奈さんが指さした方角に向かってみると、そこには大きな、宿のような建物が建っている。そしてその門前には、細い棒を持った若い赤髪の男が座っていた。
「……ソラと同じ服、君がフブキかな?」
若い男は俺に向けて棒を向けて言った。
確かに、結構強いのがわかる、そこまででたらめじゃないけど、それでも並みの人間では一瞬で倒されるレベルの強さはあるだろう。
俺とどっちが強いのかは、残念ながら一見ではわからない。
「僕はハロルド、父さんとソラに頼まれてここで君を待ってたんだ、クルツに案内するよ、ついてきて。」
そう言って背を向けた、ハロルドと名乗った男に向けてハートが跳躍し、鉈剣を一閃していた。しかし、ハロルドには当たっていない、ハートが狙いを外したわけではなく完全に背後からの奇襲に対してハロルドは回避行動をとっていた。
「危ないなぁ…いきなり何をするんだよ。」
「怪しいんだよお前! いきなり会って本人確認も取らずに案内とか!!」
ハートはそんな風に言うが、実際のところそれは後付けの理由だろう。
ハロルドもそのことをすぐに理解できたようで、呆れた顔で「本音は?」と尋ねた。
「強い相手なら、戦わなくちゃ損だろ!」
ニカっと挑発的な笑みを見せて、ハートが剣を構える。
ハロルドは相変わらずなんだか不満そうな表情ではあるが納得している。棒術の使い手なんだろう、人の背丈ほどもある棒をハートに向け、
「サラマンダーと会うのは初めてなんだよね……力加減がわからないからとりあえずドラゴンと同じ感覚で行くけど……気絶させても怒らないでよ?」
と当たり前のように言って見せた。
「上等じゃん! 首落とされても化けて出るなよ!!」
ハートが剣を構える、ハロルドも戦闘態勢になる。
かなり威圧感は薄い、相手を圧倒するような攻撃的な意思は見えない。
しかし、何か得体のしれないものを前にしたかのような違和感がある。
ハートが無駄のない薙ぎ払いをしたその瞬間、ハロルドはハートの剣の峰に棒の先端を当てていた、そこから彼女の剣を上に流しながら、崩れた体勢のハートに向けて棒の持ち手を変えて、
どんっ!
力強く顎を突いた。
ハートは白目をむいてその場に崩れ落ちる、一瞬の早業だった。
「………なんだ今の……」
威力的に見れば俺の打撃と大差ないように見えたのに、俺の打撃ではふらつきもしなかったハートを一撃で倒して見せた、何かの技だろうか。
「あ……あ〜」
ハロルドがやっちまったとでも言いたげな顔をする、実際そんな心情なんだろう。
「ごめん、本当に倒すことになるとは思ってなかった……」
気絶した状態で地面にぶっ倒れたハートに向けて、ハロルドがそう言う。
一瞬の早業で、リバーたちには何が起きたのかわかっていないようだった。
「えっと、ほかの人たちで僕に不満がある人はいるかな? いないならとりあえず停留所に案内するよ。」
そう言ってハロルドはハートを担ぐ。
背負うんじゃなくて担いだ、肩に乗せて当たり前のように運び始める。
ハロルドに案内された停留所には、ハロルド以外の人間は一人もいなかった。
「そういえばハロルド、あんたは人間なのか?」
「うん、人間、人間の妻子がいるんだよ、これでも一児のパパなんだ。」
リバーの質問に対してハロルドは当たり前のように答える、まだ二十代入ったばかりにしか見えないが、意外に年がいっているのかもしれない。
「さてと、改めて自己紹介しようか
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