第十八話 吹雪と変人伯爵

人数が倍になっても、俺たちのすることに大した変化はなかった。
とにかく安全なルートを選んで、そして南下していく。
そんな日々も一週間を過ぎたころ。
「リオネイに入りましたが……あれはなんでしょう。」
英奈さんが前方を指さして言う、そこにいるのは殺気立った二つの集団。
俺たちの前方で繰り広げられているのは、どうやら軍隊同士のいざこざのようだった。
「リオント伯、さっきから申し上げているように貴殿の領地内に逆賊が逃げ込んだという噂が立っている、それを庇い立てすれば」
「私の領地に逆賊? それを理由に踏み入りたいのならば確かな証拠を持ってこいと何度も言っているはずだ、貴殿らの蛮行を聞く限り、確実な証拠もないのにわが領地に踏み入らせることがどれほど危険かもわかったものではない。」
俺たちから見て左手の集団の先頭に立っているのは髭面の小男、それと向かい合う右手の集団の先頭に立つのは銀髪をしたまだ二十代後半であろう背の高い女性。
今リオント伯と呼ばれていたということは、どうやら彼女が変人で名高いリオネイの領主ナンナであるようだ。
「しかしことは王国全域に渡るのだ、貴殿の領地を」
「くどい!」
男の言葉を凛とした声で遮る、なんだか変人というよりはすごくまともな人に見えなくもない。
「貴様がやっていることは貴族議会への反逆だぞ!!」
「火砲用意!」
ナンナの言葉とほぼ同時に、後方の部隊が向かい合う軍隊に向けて大砲を構える。
そこまでするのかと半ば感心すらしたが、しかしさすがに発射はしない。
「私の土地に入りたいのならパージュ新元帥でも連れてこい! 一介の騎士隊長ごときが対等のつもりで私に意見するな!!」
ナンナの怒鳴り声が周囲にこだまする、はっきり言って怖い。
小男は部下を率いてすごすごと帰って行った、どうやらあれ以上の説得は不可能だと判断したらしい。
「ふん、腰抜けめ。」
ナンナは呆れたように息をつくと、部下たちに帰還命令を出す。
俺たちがその様子を見ていたところ、不意に頭を引っ張られるようなそれでいて押し付けられてもいるかのような奇妙な感覚を感じ、俺の頭の中に聞きなれた声が響いてくる。
『吹雪、聞こえるかな?』
昊からの通信だった。
「今度話すときは肉声で」と約束をしたつもりだったし昊のほうもそれに了解はしてくれていたらしかったんだが、しかしどうやら痺れを切らして俺に連絡をつけてきたらしい。
『聞こえてるぞ、そっちの様子は?』
『如月と天満はもう合流した、あとは吹雪だけだよ。』
ちょっと驚いた、天満は行方不明だと前の連絡の時には聞いてたのに、いつのまにか昊のやつと合流していたらしい、いったいどんな手段で持って連絡不能から一気に合流までこぎつけたのやら。
周囲のみんなが難しそうな顔をした俺を見ていることに気付いて、とりあえず
「俺の仲間から連絡だよ、気にしないでくれ。」
と言っておいてから、また連絡に戻る。
『こっちは予想外に大所帯になっちまった、今俺を含めて六人いる。』
『それはまた増えたねぇ……あ、こっちも連絡事項がある、如月がこの国のずいぶん深いところに巻き込まれちゃって……今クルツにはローディアナのお姫様がいるんだ。みんな合流してからしばらく経ったら、王都を攻めることになると思う……』
『おいおい……何があったんだよ。』
まさか平崎のやつがこの国の王家とかかわってることになるとは思わなかった。
みんなで集まってこれからどうするか決めるものだとばかり思ってたのに、いきなりお国を一つ左右するような問題に事後承諾の形で巻き込まれるとは思わなかった。
『この国で内乱が起きたのは知ってる?』
『ああ、隣国にも伝わってきてたからな。』
『その内乱の首謀者のせいでお姫様は追われる身になったんだ、その問題を解決してもう一回王権を奪取するのと一緒に、この国で起こっていることを明るみにして、人と魔物の共存の礎を築く計画が今錬られてる。』
さらさらと昊が述べて見せた言葉に俺は感心し、ついでに笑う。
まさかそんな面白そうなことに関われるなんて、思ってもみなかった。
「諸君、俺たちは予想以上に面白いことに巻き込まれてるぞ。」
「はい?」
全員が首をかしげて俺を見る。
「どうやら、俺の仲間はこの国を変える動きに加わるらしい。」
周囲の全員がいきなり驚いた表情を見せる。
『それに当たって、吹雪は外にいるからとある人物に接触してほしいんだってさ。』
『とある人物?』
『リオント伯爵、変人で知られる王国屈指の名君ナンナ。』
俺たちの目の前から退却していく女の名前が、俺の頭の中で出た。


「接触って言ったってなぁ……」
「まぁ、そうだろうな。」
「そんな楽にできるなら苦労しませんねぇ。」
魔物三人はとりあえず町近くの森で待機してもらって、人間である俺とリバーとチェル
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