離宮で私がすごすようになってから三日が経ち、二人に連れられて見学に行く場所もなくなってきた日の昼のことだった。
「やぁっ!」
「ふん。」
勢いに任せた私の左手の突きをリィレさんは長剣で軽々と受け止める。
「ふっ!」
「んっ!」
逆にリィレさんが剣を振り下ろしてくる場合になると、私は両手を使ってやっと彼女の一太刀をどうにか受け止めることができる程度という実力の差を見せつけられる。
私は暇な時間はリィレさんに鍛えてもらっている、どうやら二人は私を王国軍の近衛騎士団としてこの離宮に置くつもりらしい。与えられたのは二本の細い片刃ナイフで、リィレさんに仕込んでもらった技術は双剣を用いた対多数用の近接戦闘だ。
もともと近衛騎士団は上級貴族の子弟だけがなれる名誉職だったけど、フローゼンス王がそれでは近衛騎士の実力が育たないからと出自に関係なくどんな階級の人でも目に留まれば職に就いてもらえるようにした。だから、離宮に本来いるはずのない私がいる理由としては一番近衛騎士であるからという理由がもっともらしい。
ほかにも主に農民階級に対して減税を施したり市民階級のための福祉を充実させる政策を採ったりと、アリアン姫のお父様はとてもいい王様のようだ。
そのため民衆からは支持されていたけれど、王国貴族たちの腐敗を解決するための政策に出ようとしたところ貴族たちの猛反対を受け、結果としてこの離宮に軟禁されている。
アリアン姫は「憂慮すべき事態です」なんて言っていた、それは事実だと思う。
そのアリアン姫はどこかにお出かけ、リィレさんが一緒じゃないってことは特別な事情があるんだろうけれど、どこに行ったのかは教えてくれない。
リィレさんに蹴り倒されて、組手が終わる。
「少しは腕を上げたが、まだまだだ。」
「ですよね、もう一回お願いします。」
「ならん、姫が戻ってきたからな。」
そう言ってリィレさんは中庭の出入り口に向かって顔を向ける。
そこには咲き誇らんばかりの笑顔をした姫がいた。
「キサラギさん、会って欲しい方がいるんです。」
そう言って姫様は私の腕をつかむとぐいぐい引っ張る。
それに任されるまま、私は離宮の行ったことのない区画に連れてこられる。
明らかに雰囲気が違う。
何が違うって、空気の重さが全然違う。
今まで私が自由に行動していた区画はほとんどアリアン姫の自由にできる区画だったんだろう、どこか穏やかな感じのする場所が多かった。
けれどここは違う、冷たく重厚な、それこそ厳格な寺院のような重々しい空気。
「ふむ……ここに来るということはいよいよですか。」
「はい、いよいよです。」
リィレさんは姫様と何やら会話しているけれど、私にはそれが何か解らない。
「ここです。」
辿り着いたのは一つの扉の前。
姫様はドアをノックしながら、
「お父様、キサラギさんをお連れしました。」
と言った。
お父様? えっとあれ? 姫様がお父様って呼ぶっていうことは、もしかして私が今から会う人って……この国の王様?
手に汗がにじんでくる、顔からも冷や汗が湧いてきた。
そんな私の緊張ぶりを見たリィレさんが
「あまり固くなるな、できる限り私たちもフォローする。」
と言ってくれた。
『よく来ましたね、開いているから入ってください。』
丁寧な、それでいてどこかのんびりした感じの声が中から聞こえてくる。
言われたとおりアリアン姫が扉を開くと、そこにはアリアン姫と同じ金髪と赤い瞳をした、穏やかそうな男性と、真剣を思わせる雰囲気のリィレさんと同じ髪色の男性がチェスをしていた。
「チェックメイト、これで三十と七連敗ですよ陛下。」
青髪の男性が落ち着いて言い放つ。
「いやはや、やはりグラハムに戦略では勝てませんね。」
「……あくまで駒が対等ならの場合ですがね。」
皮肉めいた口調でグラハムと呼ばれた男性が答える。
「……またお二人で遊んで……父上も父上ですが陛下もそんなに暇なら体を鍛えたらいかがですか?」
「嫌ですよ、僕は肉体労働派じゃありませんので。」
リィレさんの言葉に王様は笑って答える。
王様は私のことを一瞬だけ見ると、アリアン姫に視線を戻す。
「アリアン、彼女が異世界から来た女の子ですか?」
ゆったりとした雰囲気の王様はそう訊ねた。
「はい、異世界から来たキサラギさんです。」
「そうですか……」
王様は椅子から立ち上がるとこちらに歩いてくる。
「……申し訳ありませんでした。」
目の前で止まったかと思いきや、王様はいきなり私に向かって頭を下げた。
「僕のようなふがいない男が王だったばかりに、あなたにひどく苦労を掛けてしまっています、そしてまだ、あなたに迷惑をかけ続けることでしょう……」
王様にそんなことを言われてしまって、私は混乱した。リィレさんや姫様から聞いた王様はとても立派な方だったのに、目の前にい
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