第四話

鳥のさえずりを聞きながら目を開く。
どうやら朝まで眠っていたらしい。
ネリスとセックスして、すぐに眠りに就いたはずだ。
なんか……すごくだるいのは気のせいじゃないと思う。
昨日まで童貞だったのにいきなり恋人ができてはしゃぎ過ぎたのかな。
「本当……可愛かったな、ネリス。」
いつも可愛い気がするけど、している途中のネリスはそれとは別方面に魅力的だった。
意外と淫らにあえぐ姿も、おねだりする声も淫美で性欲をあおった。
いけないいけない、思い出したら起ってきちゃうよ。
「おはようございま……起きてましたね……」
ドアのところからネリスがちょっと残念そうな顔を出している
「お目覚めのご奉仕とか、ちょっとやってみたかったんですけど……」
別に今すぐしてくださってもかまいませんよ僕は。
とは思っても口に出さない、また気絶するまでしたらいつまでたってもクルツに行くことができない。
「テリュンさんがたくさん食べさせてくれたので魔法を利用してパンを焼いてみました、それと保存食を使って朝ごはんが用意してあります。」
ワオ 家庭的。
ネリスに導かれるまま食堂に行ってみると、本当に食事の用意が整っていた。
ネリスは食べる必要がないと断ったので、僕だけいただいた。
とても美味だった。


停留所を出るとすぐに、山道に入った。
道というよりも動物が歩いて自然にできたけもの道に近い。
険しくて、しかも曲がりくねっている。
「してた時も思ったんですけど、テリュンさんって、意外と足腰強いんですね。これなら日が出ているうちにはクルツにつきそうです。」
「これでも猟師だからね、野山を下手したら鹿一匹持って歩かなくちゃいけないんだから、自然と強くなるよ。」
僕の少し前を、華奢な体躯に似合わず当たり前のように歩きながら言ったネリスに、僕は現実的な内容の返事をする。
ちょっと気になるのが、「してた時も思った」って言葉だ。
してたときに足腰の強さとか分るものなのかな……
「ネリスは大丈夫なの? 見たとこ僕より華奢だし、体持ち上げた時も僕よりずっと軽かったけど。」
「大丈夫ですよ、歩けなくなったら飛びますし。」
そういえば、収納してるみたいだけどサキュバスって翼もあるんだっけ。


日が真上にくるあたり、僕たちはけもの道を抜けた。
「道路が整備されてる……」
驚いたことに、街道のような石畳の道がそこからは伸びていた。
「ここからクルツまではこの街道にそって行けばつきます、あと三時間くらいでしょうか。」
とりあえず持ってきておいたパンと保存食の一部で昼食にしていると、前から誰かが来た。
日焼けしたような色の肌で、角を生やし、骨太の体格をして、露出の多い格好をしている。
足が人間の物ではなく牛の蹄のようになっている、ミノタウロスだ。
何か引いているのは……荷車?
「ライアさん!」
「よう、ネリスじゃねぇか、ずいぶん元気そうに帰ってきたな、いつもは今にも死にそうな顔で帰ってくんのに。」
ライアと言うらしいミノタウロスもこっちに気づいた、いやネリスに気づいた。
「お、そっちの若いの良い男じゃないか、アタシの男に――」
「なりません。」
僕に気づくとすぐに口説こうとしてきたが、迷わず断る。
ネリスがライアさんをにらみ、ライアさんは肩をすくめて「チッ、もう確保されてやがる。」と残念そうに言った。
「もしかして迎えに来てくれたんですか?」
「そうだよ、リカルドの奴に頼まれてな。代金もあいつ持ちだ。」
「リカルド?」
「私のお父さんの名前です。ライアさんは運送業者で、代金さえ払えば人でも物でも運んでくれるんです。」
もしかして、その荷車使ってライアさん自身が牽くの?
魔物の体力を今改めて理解した、ネリスが山道を普通に歩いてたのもちょっと納得できる。
「ほら乗りな、マリアのとこまでは連れてってやる。」
「ありがとうございます」
ネリスと一緒に荷車に乗り込む。
席とかはないようだから、とりあえずネリスと並んで隅に座る。
「行くぜ。」
ライアさんの掛け声とともに荷車が発進する。
およそ、人の足で出すのは無理だろうあり得ないスピードで。
「ヒイャッハァ――――――――――――! 新記録狙うぜぇ―――――――!!」
馬車も真っ青のスピードで荷車が疾駆する。
風を感じながら、僕は思っていた。
新記録って何?


三十分ほどノンストップで街道を爆走していた荷車がいきなり停車する。
僕たちは慣性に従い急停止した荷車から投げ出される。
目に見える風景が回転していたと思ったら、止まる。
どうやらネリスが僕をキャッチしてくれたらしい、彼女は翼をひろげて宙に浮いている。
「ライアさん……前に事故起こして安全運転を心掛けるよう言われませんでしたっけ?」
「そうだったか? いやぁ忘れちまったな、アタシ頭悪いから。」

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