俺はハートの家にしばらく世話になることが決まった。
ハートは持ち家で一人暮らし、ずっと前に亡くなった両親が遺してくれたこの家を離れる気になれず、火山のふもとの村の人たちの支援もあって今まで暮らしてきたらしい。
「明日皆の紹介に行くから、とりあえずパパのベッドで休んでくれ。」
意外にも、ハートは両親のことをパパとかママとか呼んでいる。
早いうちに亡くしたから、子供のころからの癖が抜けないんだと言っていた。
整えられたベッドは、多分ずっとハートが維持してきたんだろう、誰かが使った形跡もなくきれいなもんだった。
俺はそこを荒らすことに、恐ろしいくらいの躊躇を覚えた。
彼女がずっと守ってきた領域だ、必要最低限しかできない俺ですら驚くくらい家事が下手だったあの子が、今までずっと一人でここを守り続けてきたんだ。
そこを異物でしかない俺が踏み荒らす、それは彼女の冒涜につながらないか?
とりあえずベッドに横になる前に、置いてあった戸棚に目をやる。
やっぱりこれもきれいに整えられていた。
それだけじゃない、この部屋にある家具はみんなまるで持ち主が今も欠かさず手入れしているようにきれいで、汚れひとつ見当たらない。
「あいつは、両親のこと大好きだったんだろうな。」
この部屋を見ればわかる。
ハートは両親のことを尊敬していた、両親のことが心の底から大好きだった。
だからこそ、二人が生きていたあかしを失いたくないんだろう。
形にして残していないといつか風化してしまいそうで怖いから。
残された記憶だけでもこうして形を保っておけば残しておけると思うから。
だから、ハートはこんな辺鄙な場所で一人っきりで生きてこれたんだろう。
「…………」
ベッドに向かって目を閉じて合掌すると、その姿勢のまま十秒ほど待機。
「申し訳ないが、あんたを踏み荒らさせてもらう……」
そう言って俺は二人で寝ても窮屈じゃない大きなベッドの中にもぐりこむ。
人の居場所に入り込むなんて俺は本来ならしたくないんだが、そうも言っていられない。
コンコン
「あ、フブキ、まだ起きてるか?」
ドアをノックしたハートの声に、できるだけベッドを汚さないように工夫しながら起き上る。
「起きてる。」
「入るぞ。」
入ってきたハートは鎧を外していた。
裸というわけじゃなく、しかし紐ビキニのような下着に近い恰好(ってか下着だなこれ)をしていて、俺はかなり目のやり場に困る。
「どうかしたのか?」
「風呂まだだよな? よかったら入ってくれ。」
そう言われてみれば、俺はあれだけ熱い場所にいてしかも結構な運動をしてたのに風呂に入ってなかった、酸っぱくさいと思ったらこれ俺の汗の臭いだったんだな。
「ありがたくいただく、風呂はどこだ?」
「案内するよ。」
そう言ってハートは無骨な石造りの家の中を俺を先導して歩いていく。外とは石の種類が違うのかそれとも特殊な道具で遮熱してあるのか、家の中はそんなに熱くはない、せいぜい暖かい程度。
少し歩いた先に、風呂はあった。
温泉だった、露天だった。
「そうくるかー、そりゃ火山だもんなー、活火山だもんな温泉くらい湧くよなー。」
思わず笑ってしまう、とりあえず手を入れてみるがそんなに熱くはない。
多分家と同じ素材を使ってあるんだろう、火山に熱されすぎることなく温泉は大体四十度前後を保っている。
服を脱ぎ始めるが、ズボンを脱ぐ前にあることに気づく。
「いつまで見てんだ? ハート。」
さっきからずっと、黒い紐下着のような恰好のままハートは俺の着替え姿をじっくりと見つめていた、いくらなんでも異性に生着替えを注視されるのは恥ずかしいんだが。
「いや、綺麗な体してるなと思って。」
「どこがだよ。」
俺の体はあちこちに先生が作ってくださった痣や擦り傷の跡が生々しく残り、中には真剣で切られたときにできた創傷さえある。見るに堪えないもんだと俺は思ってるし、クラスメイトにはヤクザと抗争したときにできた傷だと思ってる奴さえいた。
ちなみにいうが先生はヤクザでも極道でもないただの殺人剣術師範だ。
女性で、子供生んでるとは思えないほど美人でその上若々しかった。
「見た目がじゃなくて体つきだぞ? 全体に無駄がなく動きを邪魔しない程度に必要な筋肉が必要な分ある、よっぽど正しい鍛錬を積んできた人間じゃない限りそうはならない。」
言われて納得する。
先生は本当に関節の動かし方から剣を振る角度までみっちりミリ単位で矯正して俺に叩き込んでくれたから、おかげで俺はこんな体つきになった。
「……褒めてくれたのはうれしいんだが、見るな。」
ここから先は女人禁制のシークレットゾーン御開帳タイムだ。
しっしと俺はハートに向かって手を動かすが、彼女は動じない。
「別にいいだろ? 見たって。」
「よくねーよ! 俺にも羞恥心があるんだよ!」
「
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