目が覚めると、あたしはよくわからない場所にいた。
変な形に曲がった木、全体的に何かがおかしなまるで不思議の国の童話のワンシーンのような異常な光景。
それらをひとしきり眺めてみて、あたしの身に何が起きたのかを考える。
「えっと……皆で魔法陣を作って、魔法陣を使ってみて、そしたらこんなことになって……」
その瞬間あたしはあることに気づく。
それを確認するために、もしくは否定するために辺りを見回してみて、理解する。
「昊が……いない?」
弟の昊が、あたしの目の届く場所にいない。
そうだった、空中を自由落下しているときに少なくともあたしと吹雪はどこかに弾き飛ばされて他の二人とはぐれてしまった。弾き飛ばされた時からの記憶がほとんどないのは、あたしが気絶していた証拠だろう。
一気に不安になる。
こんなわけのわからない場所に何の準備もなく放り出されて、一番信用している大切で大好きな弟ともはぐれて一人ぼっち。
両親が事故で死んだときだって、莫大な遺産を引き継いだせいで周囲の大人に何度も獣のような眼で見られたときだって、こんなに不安になったことはなかった。
だってそのときは、昊がそばにいてくれたから。
けど今、あたしのすぐそばに昊はいない。こんなところにあたし一人。
「そらぁ! 居ないのぉ!?」
目から流れそうになる塩辛い液体を堪えながら、弟の名前を呼ぶ。
すぐ近くにいたら、昊は何をおいてでもあたしのことを助けてくれる。
今までだってそうだった。
ぶつくさ文句を言いながらでも、あとで小言が待っていようとも、昊は絶対にあたしのことを見捨てなかった。いつだってあいつはあたしに大きな負担がかからないように細かな配慮をしてくれて、そしてあたしのことを助けてくれた。
そんな弟に、姉としての立場を逸脱した感情を抱いたのはいつからだっただろう。
一線を越えなかったのは、そこまで昊に迷惑をかけられないと思ったから。いつも迷惑をかけてばかりのお姉ちゃんが、そこまで弟に甘えることなんかできっこないと思ったから、だから必死に我慢した。
「こんなところに来るくらいなら、言っておけばよかったのかな?」
お姉ちゃんとしてでも家族としてでもなく、一人の女として「好きだよ」と言えばよかったのかな?
もしかしたら昊だって受け入れてくれたのかもしれない。
それともあたしは、受け入れられることが怖かったのかな。
そうやって背負いきれない昊の人生まで一緒に抱えることが怖かったから、昊の人生に「近親相姦」なんて重荷を加える責任をとれないのが分かっていたから、だから怖かったのかな。
吹雪にはよく「この超弩級ブラコン」なんて言われたなぁ。
如月は応援してくれてたっけ、面白いからって。
「ははは、ブラコンだねあたしってば。」
吹雪の言ってた通りに、あたしは超弩級のブラコンだ。
だってこんなところに一人ぼっちになってるはずなのに、弟のことで頭がいっぱいなんだから。目を閉じた瞬間、弟の顔が浮かんでくるんだから。
「ふーん、お姉さんブラコンなんだ。」
あたしの視界に突然顔を出したのは、あたしよりいくらか年下に見える女の子だった。
けどその女の子は、普通じゃなかった。
綺麗な栗色の髪に黄金色の瞳は日本じゃ滅多に見れないけどここは日本じゃなさそうだからまぁ別に放置するとして、問題はそのほか。
栗色の髪の間からにょきっと生えてる角。
青色をした翼と同じ色の尻尾、そして日本の往来を歩いていたら職務質問まっしぐらの露出が異様に多い格好。
「貴方は誰?」
「ボクはサキュバスのメリオだよ、よろしくね。」
メリオと名乗った女の子は、とても魅力的な笑顔でそう言う。
サキュバス、ゲームとかに出てくるよくエッチな恰好してるあれ?
「ボクのお姉様からここを守るように言われてるんだけど、お姉さんどこから入ってきたの?」
「えっと……気付いたらここに居て…」
あたしはとりあえずメリオにここまで来た経緯を全部説明した。
もちろん皆のことも如実に話した、気付いたら昊のことを言ってる割合が多かった気もするけど、メリオはそれを全部笑顔で聞いていた。
「なーるほどねー、うん大体わかったかな。」
あたしのつたない説明を空中でくるくる回転しながら聞いていたメリオは、あたしの話が終わるとすぐにその動きを制止する。
「お姉様が帰ってきてるならお姉様に指示をうかがったけど、いないからなー。」
「お姉さま?」
「ボクをサキュバスに変えてくれた人だよ、ボクの恩人なんだ。」
ちょっと自慢げに話してくれる。
ところでサキュバスに「変える」ってどういう意味だろう、もとは何だったのかな。
「そうだ!」
何かを閃いたような表情でメリオが突然大きな声を上げる。
「ねえお姉さん、ブラコンなんだよね?」
「………うん。」
「じゃあ………弟と結ばれたい?」
メリオが
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