第三話

目を覚ますと日が真上に来ていた。
ネリスは僕の頭を膝に乗せた状態で、服も全部着て切り株に座っている。
僕も気を失う時は裸だったはずなのに、今はきっちり服を着ている、ネリスが着せてくれたんだろう。
どのぐらい気絶していたんだか……
「起きられましたか……」
ネリスがなんだか申し訳なさそうな顔で言う。
なんか……服から異臭がするけど気にしちゃいけないんだよな?
「やっぱり誰も見ないとわかってても野外は好きじゃないです……」
「おなかはいっぱいになった?」
「五分目ほどですけど……それより心が満たされたので十分です。」
「そうか、それは良かった。」
と表面上何でもないようにしていたけど、内心とんでもなく驚いていた。
あれで五分目……?
だってネリスも気を失ってたよね? 僕も気絶した。
なのにそれでもまだ五分目って、どれだけ必要なの?
「テリュンさんが起きるのを待ってたんですよ。」
「どうして? 補給は済んだんだから置いて行ってもいいような気がするけど。」
「それは……あの……」
ネリスが顔を赤く染める。
もじもじと恥ずかしそうな彼女の様子を見てなんだかまたむらむらしてしまう。
「テリュンさんは……私のこと好きですか?」
「もちろん!」
だって一目惚れをしてしまった挙句に語り合ってまた一回惚れて、そしてセックスしていたときにももう一回惚れましたから。
「良かった……相思相愛って聞いて勝手に盛り上がってたんじゃないかと不安になったんです……」
そう言えばそんなことを言っていた気がするよ。
ついでに言うと、そのあとから急にネリスが激しくなった気もする。
「ところで、それがどう関係するの?」
「よろしければ……クルツに来ませんか?」
「クルツ……」
クルツ自治領。
ネリスの故郷であり魔物と人が共存する土地。
この反魔物派が大多数を占める王国で、数少ない親魔物派の土地。
「けど、クルツに一度移住してからこの王国の他の土地に移住することは現状ほぼ不可能です、ですから……」
「うん、ネリスの故郷なんだろ? 行ってみたいよ。」
すごくまじめに話すネリスに対して、僕は気楽に答えた。
「本当ですか!?」
「うん、本当、どうせ僕はもう家族もいないし、あの土地にそこまで大きな未練があるわけじゃないからね。」
それに、クルツに行けばネリスに会える。
声には出さなかったけれど、それが一番の動機だった。


クルツ自治領までは、歩いておよそ一日。
意外に近くてびっくりだ、ネリスも帰る途中だったらしい。
とりあえず出かける前の準備として森の他の罠を点検して、何もかかっていなかったら解除、かかっていたら食料として取っておいた。
一時間ほどかけて用意を終わらせるまでの間、ネリスは何も言わずに僕を待ってくれていた。
「お待たせ。」
「いえ、じゃあ行きましょうか。」
ネリスの頭からは、角が消えている。
角隠しというサキュバスの魔法の一種で、角を他人には見えないようにするらしい、利用すれば人間の女性のようにふるまえるのだとか。
便利すぎないかと疑問に思ったけど、どうやら高い魔力を持っていないとできないらしく普通当たり前にはやらないのだそうだ。
「どっちに向かうの?」
「ここから南西です。」
耳を疑った。
ここから南西に半日ほど行けば、そこは人の立ち入りの乏しい険しい山岳地帯だ。
一番近い僕たちの村の住民ですら、そこに好んで行こうとする人はいない。
王国で一番開発が進んでいない地域とすら言われている。
「クルツ自治領は、山岳地帯にあった盆地に作られてるんです。」
「そこまで行くのに一日か……それより、良く今まで誰にも見つからなかったよね、人里から結構近いと思うんだけど。」
「そこら辺は万全です、屈強な騎士でも簡単には入ってこれません。」
形の良い胸をそらしてネリスは言い切る。
それってもしかして、存在自体はある程度外部に漏れてる?
そう思ったけれど、気にするのはやめておいた。


六時間ほど歩いて夜。
僕も来たことのないような森の奥深くに、宿のような建物があったのでそこで休んでいる。ここから僕のいた村までは往復で半日以上かかるだろう、村人の物ではないと思う。
ロビーのような部屋にソファがあったので僕はそれに座っている。
台所には保存のきく種類の食べ物がたくさんあり、医薬品までそろっている。
さらには近くに泉があり、体を洗うこともできる。
ネリスが案内してくれたところを考えると、クルツの関係者が外に行くときに一次停留するための停留所かな?
そのネリスは泉に水浴びに行っている。
覘きに行ってもたぶん幻術で保護してあるだろう。
サキュバスにしては珍しいよな、あんな恥ずかしがり。
そう言えばもう一つ気になることがある。
ネリスはどうしてあんなに飢えていたんだろう。
はっきり言って彼女
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