目を開けると、私の視界に映ったのは見知らぬ風景。
ぼんやりと少しの間考えてから、自分がどんな風になったのか思い出す。
皆で魔法陣を書いて、そしてその魔法陣を起動させたと思ったら、いきなり空に投げ出されて。
落下していく途中、皆が私とは違う方向に飛んで行くのが見えた。
私が覚えている限り、私はあのまま町に落下したはずだけど。
「あ、目が覚めたんですね。」
ベッドの隣に、私より一歳か二歳年下だと思う女の子が立っていた。
くすみのない、絹糸を金色にしたような見事な金髪を背中に自然な感じで流して、服装はどこか中世の町人のような格好だった。
その近くには、どこかの狩猟ゲームの太刀みたいなやたら長い剣を背中に負った私より年上の、とても真面目そうな女の人が不機嫌そうな表情で立っている。なんだか怖い。
笑ってれば美人だと思うんだけどな……
髪は昔見た沖縄の海のような青色で、ショートヘア。
「リィレ、目覚めましたよ!」
女の子は女の人に向かって嬉しそうに言う、女の人は固い表情のまま、私のことを見つめている。
「目覚めたのは、おっしゃられなくとも見ればわかります。」
丁寧だがどこか棘のある口調で、リィレと呼ばれた女の人は答える。
「初めまして、わたしはアリアンと申します。」
アリアンと名乗った女の子は、私に向かって恭しくお辞儀をする。
とても綺麗な、お姫様のような仕草だった。
「如月です、平崎如月。」
「キサラギ……それが貴女のお名前ですか?」
「はい。」
アリアンは私に向かって丁寧な言葉遣いで話しかけて来るから、思わず私も丁寧な言葉遣いをしてしまう。
「……王国軍近衛騎士、リィレ・マクワイアだ。階級は大佐。」
リィレさんはあくまで私に向かって警戒したような態度を崩さない。
しかしそんなリィレさんのある意味正道な反応がアリアンは気に入らないらしく、
「リィレ、いけませんよお客さまにそのような態度では。」
子供っぽく頬を膨らませながら、アリアンはリィレさんに文句を言う。
「私は、彼女を客と思っておりませんので。」
リィレさんは本人である私を前にしてあっさりこう言い返す。
「……確かにキサラギさんはいきなりバルコニーの上で寝転がって気を失っていたのですからあなたが警戒するのは仕方ないかもしれませんけど、でもその態度は無礼ですよ。」
「お言葉ですが姫、」
「姫?」
アリアンのことを今確かにリィレさんは「姫」と呼んだ。
「……知らんのか?」
「はい、何のことだか。」
「この方は、ローディアナ王国第二王女アリアンロッド・ローディアナ様だ。」
一瞬私は凍りついた。
魔法が実在していて、それによってわけのわからない世界に飛ばされたまではまだいいとする。
でも、その王族が目の前にいるのはちょっと予想外が過ぎる。
「お姫様ってドレスを着てるものだと思ってました。」
「こちらの姫様は『ドレスは重くて動きづらい』から嫌いだそうだ。」
重くて動きづらいって、またある意味では現実的な理由で……
「社交の場ではさすがに着ますよ?」
「そこで着なければ陛下含めていい笑いものです。」
なんて言うか、姫様に対するリィレさんの態度ってあんまり敬ってるって感じじゃないよ、むしろ姉妹みたいな接し方をしてる。
「ところで、貴様どこから来た?」
「ええっと、私、異世界から来たみたいなんです。」
「だろうな、ある程度予想していた。」
リィレさんは驚くことなく言い返す。
「……やっぱり。」
姫様も当たり前のようにうなずいている。
意外にも私が異世界から来たことは簡単に受け入れられた、ちょっとびっくり。
「見たことのない衣装、突然バルコニーに現れる神出鬼没さ、それに何より自分が置かれている状況に対する理解のなさ、異世界人が妥当ですもんね。」
それから、アリアン姫とリィレさんは顔を見合わせる。
「とりあえず、私たちの知る限りですが情報をお伝えしましょうか。」
姫はそう言って、リィレさんは数冊の本や巻物をとってくる。
私は姫に机まで導かれる。
姫はまず巻物の一つを机の上に広げて見せる。
そこに書かれていたのは地図だった。
その真ん中にある名前を指で指し示す。
読みは……わかんないや。英語式ともドイツ語式ともちょっと違いそうだし。
「ここが、今私たちのいるローディアナ王国、王都スクルドです。」
「正確には、スクルドの王城階層離宮ですね。」
アリアン姫の言葉に、リィレさんが補足で説明する。
王城階層って何? って私の疑問が顔に出てたんだと思う、姫は
「このスクルドは五つの階層に分かれています。下から順に貧困階層、市民階層、兵士階層、貴族階層、そしてこの王城階層です。」
「何でそんな面倒なことを?」
「防衛上の理由だ、貧民階層を除いたすべての階層を城壁で守り、城門からしか行き来ができないようにする。その上
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