ちょっとばかり印象的だった、俺とある男の出会いでも語らせてもらうか。
その男は自分のことを「ロゼ」と名乗った、本名は教えてくれなかった。
それは俺が初めて外界に行った時のことだった。
そのころの俺は、第一子ハロルドが生まれたところだった。
「外界に出張? それじゃハロルドのお世話は……」
「全部任せちまう……すまない。」
父さんに外界に行ってクルツ移住希望者を探し、ついでに機会があれば売られていく奴隷たちを解放してくるように命じられたところだった。
なぜ俺なのかと言えば、父さんじゃ名前が立ってしまっていてだいたいどこに行っても元勇者であることがばれてしまうからだ。
本当、妻のアメリアには申し訳ないけど、仕方のないことだと割り切ってほしい。
「分りました、頑張ってお父さんより立派に育て上げて見せます。」
アメリアの場合はなんか逆にそれで燃えてくれたから良かったけど、実際。
「いい妻を持ったよ俺は。」
「その代わり、帰ってきたらまず私のところに来てくださいね。」
「約束する。」
そう言って家を出た俺は、通行証片手に城門に向かった。
門をくぐり、ルミネが作った特殊空間に入る。
この空間はマリアのために作られたもので、彼女がここにいても窮屈さを極力感じないように工夫してある。
「あらクロスさん、お出かけですか?」
「外界までしばらく行くことになる。」
「お気をつけて。」
顔パスで通ってしまった。
外界に出て数日が経ったときのことだった。
「すみません。」
滞在していた村で魔物についての情報を集めていたところ、声をかけられた。
振り返るとそこには、金髪で背があまり高くない、若い男がいた。
「何か?」
自分から人に声をかけているときに、いきなり人に声をかけられるとは思わなかった。
「貴方は魔物を探していると聞きました。」
「……それが?」
前に討伐のために魔物を探していると言って、情報提示を求めていたらこの領地の領主の私兵がいきなり現れて襲ってきたということがあった。
それ以来数度「親魔物派だろう」と因縁をつけられている。
こういった場合、往々にして貴族が魔物を探されると困るから探される前に委縮させてしまおうという目的の場合が多い。
そのためこの町には、貴族とかかわる形で魔物がいると言う確信を持っている。
もっとも、それが魔物のせいにして民間から略奪しているパターンか、魔物を捕まえて売りさばいているパターンかで二手に分かれるが。
「……僕はロゼと申します、話があるので少しご同行願えますか?」
ロゼと名乗った男はそう言いながら、持っていた紙に
『魔物の居場所を知っています』と走り書きしてこっそり俺に示してきた。
信用できる人間かどうか、ロゼの瞳を俺は見つめる。
澄んだ紅色の瞳、そこに見えるのは実直で誠実な雰囲気。
こいつなら、おそらくウソはつかないだろう。
「いいぞ。」
ロゼに案内されたのは、その村にある中では一番安い宿だった。
俺がとっている宿よりもさらにワンランク安く、正直言って汚い。
机一台と、簡素なベッドがあるだけの部屋、ロゼの荷物はほとんどがスクロールにした紙やそれに記入するためだろう筆記用具だった。
衣服は必要最低限しかないように見える。
「一体、何の仕事だ?」
「小説家ですよ、あちこちめぐって冒険小説の題材を探してるんです。」
まるで用意していたかのように淀みのない返事だった。
どことなくきな臭さを感じさせたが、せっかくの情報提供者を頭から疑うのも失礼だろうと思い俺はそれを気にしないことにした。
それより気になるのが、外の気配だ。
昨日俺に因縁をつけてきた男が、また俺のことを見張っているらしい。
気配を隠すのがあまりに下手すぎる。
ロゼもそれに気づいたらしく、また走り書きで
『以後、魔物のことは「彼女」と言いましょう。』
と提案してきた。俺も声を出さずにうなずく。
「本当に彼女の居場所を知ってるのか?」
「ええ、彼女はあるお屋敷に、お友達と一緒に滞在しています。」
その意味するところは簡単にわかるだろうから、ここでは要約しない。
「今日の夜にでも彼女は出立するでしょう、会いたいなら、その前に尋ねていくべきかと思います。」
それはまた見事に時間がない。
「そうか、情報提供ありがとう、お礼に飯でもおごるよ。」
少し前、クルツを出てすぐにいた魔物を討伐したふりしてクルツに送り報酬をがめたおかげで財布の中にある程度余裕はある、この村でもいくらかバイトした。
「おいお前!」
部屋を出るとすぐ、見張っていた男が俺たちに声をかけてきた。
名前を言われなかったのでとりあえず無視、部屋に鍵をかけるロゼも気にした様子はない。
やっぱりこいつ小説家って感じじゃない、むしろ、
「聞いてるのか、お前、そこの赤毛!」
どうやら、色を判別するく
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