クロスが語る 生きるために(バトル)

先生の次は俺か……
もともと無口な性分の俺に長く語れって言ってる時点で大きな矛盾だってことくらい理解してほしいところなんだが。
で、どんな話が聞きたいんだ? と言うか、どんな話は聞いてないんだ?
ああ、俺はクルツ成長期から語ればいいんだな。
けどあんまり聞いても面白くないと思うぞ。
それでもいいんだって?
まぁそう言うことなら語らせてもらうとしようか。
二十三年ほど前のこと、血で血を洗う、俺たちを滅ぼそうと向かってくる王国の騎士たちと、自分たちが自分たちらしく生きるためにこの土地を守ろうとした先人たちの戦い。
その末席に加わっていた者として、まだ一人の少年だったころの話を。


「進め! 進め! 恐れるな、神の威光に逆らう背信者に血の安息を!!」
王国軍の司令官を務める男の鬨の声と共に、数十人騎士たちが突撃を開始する。
俺がそのときいたのはクルツ防衛戦の最前列だった。
今の防衛の要と言えるルビーもライアもマリアもそのころにはクルツの民ではなく、俺たちは質こそ高いが教会の騎士たちよりもずっと少ない、人間が大半の戦力でどうにか戦い続けていた。
向かってきた騎士たちの上から落雷が降り注ぐ。
十人ほどが炭になって転がっても、騎士たちの勢いは止まらない。
後方では、城壁を築くために何人もの戦う力を持たない人々が作業をしている。そこまで騎士たちをたどりつかせてしまったら、戦いに勝ったとしても事実上敗北だ。
「第三第四第五隊防衛布陣! 第一第二隊は討ってでる! 俺に続け!」
まだクルツと言う名前はこのときなかったけど、とりあえずその方が通じやすいだろうからクルツと言おう。
当時のクルツの戦力はおよそ百人。
それぞれ第一隊に父さん、第二隊にマーロさん、第三隊に母さん、第四隊にベルナ、第五隊に先生と言う隊長を置き、二十人ほどの兵がそれに従う。
俺は当時第一隊の一兵卒だった。
父さんが先陣を切って敵の中に駆けこんで行く。
一人の顎を打って一撃で昏倒させると、その相手を弾き飛ばしてさらに数人を巻き込ませる。
あとに続く俺たちも、飛び道具で援護しながら近距離武具で敵を確実に倒していく。余裕のある今のように殺さず済ますという戦い方はしていない、殺さないのは努力義務で、殺さなくてはいけないと判断したら迷わず相手を殺すことが決定されている。
俺も手近な敵兵を倒しながら、父さんに続く。
父さんを先頭に一気に駆け抜けて、敵将を打ち取る作戦だ。
将さえ倒してしまえばあとは統制と士気を失った騎士たちを掃討していけばそれで済む。
とはいえ、今日でもう五日連続で襲撃を撃退している。
こちらの疲弊も著しく、ここにきて戦死者が何人も出てきた。
「お前らの将は俺が倒した! 退け! 去る者の命はとらん!!」
父さんが大きな声で合図をする。
統制を失い、自棄になって襲ってくる兵を倒しながら俺たちは後退する。
母さんの出した土巨人の真下にたどりつくと、ようやく一息つくことができた。
「被害は?」
「死者一名、負傷者が十八名。」
父さんの質問に、母さんは淡々と答える。
「一人死んだのか……」
父さんが渋い顔で言う。
負傷者ならば先生の治療でまた戦ってもらえるからいいけど、死者はどうしようもない。
せいぜい遺体を回収して弔ってやれればいいところだ。
「飽きもせずに毎日毎日突っ込んできやがって、あいつらに学習する脳味噌はねぇのかよ。」
防衛ラインの維持から戻って来たベルナが言う。
「このままじゃ疲弊する一方だな……連中それを分かって騎士を捨て駒にしてるんだ。」
父さんが言う。
近くの村に駐屯してそこから騎士を送り込んできているのかそれとも谷を抜けるあたりに駐屯して補給をしているのかは不明だが、騎士たちは毎日毎日繰り返し攻めてくる。
質は低かったからおそらく捨て駒に育てられた平民騎士だと思う。
もっと実力のある本隊を用意しているかそうでもないかまでは分からないが、このまま繰り返し攻められたら兵力に余裕のないクルツは負ける。
「クロス、お帰りなさい。」
いつの間にか近くに来ていたのは、俺の妻アメリアだった。
既にこのころには俺は彼女と結婚して、同じ家で過ごしていた。
俺より二つ年下で、綺麗な銀色の髪の娘だったよ、息子の内ランスにしかその髪色が出なかったのは残念でならん。亡くした今も自慢の妻だ。
「城壁の建築はどのくらい進んでる?」
「あと最短でも一カ月はかかる、長ければ三カ月は先だ。」
城壁建築の担当だったグリッツが言う。
「なさけねぇぞ親父! 一週間でやって見せるって言えよ!」
「ブリジット、無理を言うな。」
グリッツがブリジットにやんわりと返す。
親が建築家だったとかでこう言うものの建築もできるそうだから任せているが、正直なところ専門ではない彼一人の指示では賄いきれない部分がある。

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