第一話 昊と扉とクルツの民

二つ作られた大きさの違う○。
大きいほうの半径と直径が同じの大きさの○が、大きな丸の右側に含まれている。二つの丸は十字の線で四つに区切られ、その四等分した部分それぞれが半径の半分当たりのところでもう一度一本の線で二つに分けられる。
二つに分けられた図形のそれぞれにサンスクリット語かギリシア文字のようなものや幾何学模様が幾重にもつづられて、隙間なく円を埋めている。
「これで、完成。」
山奥の廃屋に、白いチョークで書かれたその図形は、今僕が描いた一線で完成になる。
「本の通りの魔法陣だ、書き終わるのに三日かかるなんて思わなかった。」
右手にコピーした本のページの写しを、左手にチョークを持って、僕は皆に報告する。
「おー、すげぇすげぇ、完璧に一緒じゃん。」
それを見た因幡吹雪は、感嘆の声を上げて拍手する。彼は僕の一番の友人で、近所では有名な不漁で通っているけど実はそんなに危険な奴じゃない。
木刀を使って人を殺すっていう、木刀のコンセプトをおよそ無視しためちゃくちゃな剣術を使うけど、それだって護身のためにしか使わない。
「器用だよね、昊君って。」
そう言ったのは平崎如月、同じ学校の同じクラスに通う女子で、なぜか一緒に行動するようになって今回のこれにも参加した。
黒髪のショートカットの似合う元気で可愛い女の子で、クラスの人気者。
僕の名前は三条昊、えっと、昊の漢字は「そら」って読みますのでご注意を。
そしてもう一人、僕たちの後ろで寝ているのが、
「ほら天満、出来たよ。」
僕の姉、三条天満。
「てんま」じゃなくて「あまみ」と読む、姉弟そろって読みづらい字で失礼。
黒髪ロングが麗しい大人の女って感じがするけど、子供っぽくて頼りにならない。
僕たち四人の共通点が一つだけ、ほんの一つだけ挙げられる。
それが、僕たちが皆ここに居場所がないと感じていること。
そして、他のどこかに行ってしまいたいと願っていること。
少し前に僕たち四人で僕と天満が二人きりで暮らす家の蔵で、僕たちが見つけた本には今僕が書いた魔法陣が載っていた。
「旅立ちたいと願うなら、夢を見たいと願うなら。」
そう書いてあった。
退屈しのぎと幾許かの好奇心で、僕たちは学校からチョークを一個かすめ取って、一番製図の上手な僕の手でこの魔法陣を書き上げた。
魔法なんてないと思いながらも、もしあったら何が起きるんだろうと思いながらこれを書き上げた。
「じゃ、始めようか。」
僕たちはみんなで手をつないで輪になると、魔法陣の上に立つ。
『我らは旅立ちを求めし者、扉よ開き、その道を示せ。』
本に書いてあった通りの呪文を呟く。
何も起きなければただの痛い人たちだった。
けど、「何か」が起きたから痛くはなかった。
魔法陣が発光しながら崩れるように床ごと形を失っていく。
そして僕たちの足下に開いた穴には、ファンタジーゲームで出てきそうな空間が広がっていて、
光が僕たちの体を覆ったと思うと、
僕たちは落下を開始した。


「うぅぉおおおおおおおおおわぁああああああああああああああああ!!!」
「きぃやぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
四人そろって絶叫しながら、僕たちは落下する。
無意識のうちに皆手を放していた。
体の大きさのせいか体勢のせいか、わずかに吹雪の落下速度が速い。
真下にある街並みまで、僕たちは一気に落下していく。
そう思った瞬間だった。
ガギィン
テレビでよく剣を交わした時にするような音がして、吹雪は「跳ねかえった」
そして落下の勢いのまま、今までとは全く違う方向に飛んでいく。
ガギィン
次に跳ねかえったのは天満だった。
吹雪とも違う方向に、その軽さが災いしてか吹雪よりさらに速く遠くまで飛んでいく。
次は僕の番だった。
ガギィン
凄まじい衝撃に一発で意識を飛ばされて、僕はそのままどこかに飛んで行った。
消えゆく視界の中で、如月だけがほとんど落下の方向を変えずに堕ちていくのが見えた。


目が覚めると、そこは森の中だった。
全身が痛いけど、不思議とどこにも怪我なはい。
落下していくときに体を包んでいた光の影響だろうか。
とりあえず立ち上がって、あたりを見る。
全く知らない土地だった。
僕の暮らしていた街は結構な田舎だったけど、それでもこんなに家の近くの木は太くなかった、それに日本にはない品種の木だと思う。
地面はどうやら腐葉土らしい、それは日本とあまり変わらない。
たぶん僕は今の魔法でどこか他の世界に飛ばされてしまったんだろう。
魔法も他の世界も全く信じていなかったけれど、こうなってしまったら信ぜざるを得ない。
「いい加減……
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