第四話 セックスライフも楽じゃない

マカロフさんのレストランでは基本的にデートでイチャイチャすることは禁止されていない、むしろ見せつけてくれた方が料理の創作意欲がわくとか対抗意識が芽生えてくるとかでマカロフさんは大いに推奨している。
ただし公然プレイになってしまうのでセックス行為は禁止、それは家まで我慢する必要がある。
僕たちはお互いに隣り合って、キスをして食べた物の味を教え合ったりも交えてイチャイチャしながら一通り食事を楽しんでから店を出て、
「ここにいたか。」
こめかみに青筋を浮かべているツィリアさんに出くわした。
クリムとあまり変わらない幼女体型に、綺麗な金髪。
白い羽に同じ色の羽衣を着た彼女は要するにエンジェル。
このクルツの法を司る、恐怖の執行者。
普通にしてればかわいらしいこの人は、しかし今見るからに怒っている。
「ライア。」
「へぃっ!!」
ライアさんがかしこまった直立不動で固まる。
以前暴走してスティードをぶっ飛ばした時は厳重注意で済んでいたけれど、ツィリアさん直々のお出ましということはまた何かあったんだろうか。
「ブリジットが探していたぞ、新作に使うリンゴを今日果樹園から届けてもらうはずなのにいつまでたっても来ないと言っていた。」
「あちゃー………」
今日はほぼ一日僕とベッドの上で過ごしていた。
それが理由で運送の仕事を忘れたとなれば、ブリジットさんはカンカンだろう。
下手をしたら悶絶するほど強烈な一撃を腹に食らうかもしれない。
年度恒例クルツ自治領腕相撲大会魔物の部、不動の王者の拳は痛い。
「やっべぇ……ブリジット怒らせるのだけは勘弁だあいつ怖いんだよ……」
ライアさんが焦りだす。力自慢の彼女がこのクルツで唯一力勝負に勝てないのがブリジットさんだ、恐れるのも無理はない。
「一緒に僕も謝りに行きますから。」
「それはそれでよくない気がする……」
青ざめた表情でライアさんは即答する。
「ノーティ・ノア」
「はいぃっ!?」
ツィリアさんの空色の瞳が次に捉えたのは僕だった。
体が勝手にかしこまる、クルツの民の半数以上はこれが癖になっている。
「そう恐怖するな、傷つく。」
そんな風に言われても怖いものは怖い。
「あの、ツィリア、ノーティが」
「お前はさっさと仕事を片づけてこい!!」
ライアさんは怒鳴りつけられ、「イエスマム!!」と敬礼してから荷車を牽きながら猛スピードで行ってしまった。
「お前からライアの匂いがするがどう言うことだ? ライアからは精臭がしたし。」
「えっとあの……」
隠し立てすると後が怖いので正直に一昨日から今日までにあったことを簡潔に説明する。
「なるほど、良かったじゃないか。」
「良かった……まあそうですね。」
「どうかしたのか?」
歯切れの悪い僕に対してツィリアさんが怪訝な顔をする。
正直、流れと乗りで付き合う形になってしまったことは否定できない。
そのまま僕たちの生活が維持できるとも思えないし、それに今日みたいにセックスに夢中になって職務怠慢に陥れば次はしばらく不能にされかねない。
それが僕たちにとって「良かった」ことなのかは自信がない。
「僕はライアさんのことを本気で愛してる自信があります、ライアさんも僕のことを大事にしてくれるとは思うんです、あれで優しい人ですし。」
「そうだな、注意力と学習能力には欠けるが面倒見はいい。」
「でも、今のままで暮らしていけば必ずどこかで歪みが出ます、それが怖いんです。」
正直ズッコンバッコンやりっぱなしのこの二日間はまずい。
堕落していく一方では僕たちに先はないだろう。
「……魔物との結婚に関しては、先達に聞くのが一番だろう。」
ツィリアさんはそう言った。
「先達?」
まさか魔物との恋愛を成就させたクルツの猛者たちのことだろうか。
もう夜もだいぶ更けた時間だし、家に行けば普通に会えるかもしれないがしかし何となくまずいシーンに出くわしそうで怖い。
「家に訪ねて行って色々聞いてみろ、同じ魔物を恋人に持つ者同士、色々と話し合える内容のこともあるだろう。」
「そうかもしれませんけどね……」
このクルツも純粋なクルツ生まれは少数派で、ほとんどの人が外の世界で生き場に困っていた人たちだから、魔物に対する抵抗がぬぐい切れていない。
でもいくらか魔物と人のカップルは成立している。
一年ほど前にラッシュがあってその時三組増えた。
まず外界の猟師だったテリュンさんと、魔物の領主ルミネさんの娘、サキュバスのネリスさんのカップル。担当こそ違えど二人とも同じ仕事場でしょっちゅうイチャイチャしていると聞く。
次にランスさんと、クリム、シェンリさんの猫姉妹の三人。独占欲の強い魔物を相手にドンブリが成立するのは二人の仲が良いからだろう。
三組目が、正直ちょっと話を聞くのが怖い。
元勇者ロイドさんと、ドラゴンのルビーさんカップ
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