僕の名前はテリュン、反魔物派の王国の田舎町で猟師として働いている。
だいぶ北の方に王都があるとは聞いているけれど、僕の暮らしている田舎村からするとそこはびっくりするくらい遠いので、ほとんど異国だ。
この近くには魔物が住んでいる可能性があるとかいうことでたまに彼女らを討伐するために王都から騎士団が送られてきたりする。
幼いころから僕に教えられてきた魔物とは、
その一・人類の敵である
その二・彼女らは人をさらって食べてしまう
その三・人を誑かすために美しい女性の姿をするがとにかく危険」
この三つだ。
しかしある日、そんな教えを覆すことが起きた。
その日も僕は猟に出かけた、狙いは基本的にはウサギや野鳥だけど、うまいことヤギや鹿がつかまってくれれば言うことはない。
猟師、と言っても僕は狩りに弓矢やナイフは使わない。
もちろんどでかい剣を使うわけでも、重たい槍を使うこともない。
僕の狩猟手段は、基本的にトラップ。
落とし穴に、トラバサミに、籠。
そう言ったトラップを設置しておいて、時間が経ったらそこに確認に行く。
獲物をとられるんじゃないかと心配なさる方がいるかもしれないがそこはご安心を、野山に入る人なんて僕しかいないから、
と、思ってたんだけど、
「……」
トラップの一つ、吊るし縄。
正式名称は知らない、知らなくても作り方使い方が分ってれば問題ない。
隠された発動装置をうっかり動物が踏んでしまうと作動。
ひっかかった間抜けな動物は空中につるされ、うまくいけば首が閉まって即死、うまくいかずとも僕が余裕でとどめをさせる。
それが発動しているのに、獲物はいない。
自力で抜けだしたんじゃなく、明らかに破壊されている。
それも、人的な手段によって。
「驚いたとしか言いようないよね……これは。」
まさか盗まれるとは思ってもみなかった。
「あれ?」
良く見ると縄に手紙がくくりつけてある。
「何何……
『本当にごめんなさい、おなかがすいて耐えられなかったんです
獲物をとってしまったことは謝ります ですから許してください
クルツ自治領のネリス』
何これ……っていうか普通盗んだのに証拠残すかな……」
っていうか、クルツ自治領って何?
僕はこれでも勉強は村の中ではかなりできる方だ。
王国の地理にも結構明るくて、猟師の仕事を親から引き継がなかったら地方都市の役場で働くこともできたと言われた。
けど、クルツ自治領なんて名前は聞いたことがない。
少なくとも、これを盗んだのはネリスっていう女の子のわけだ。
「……気にしても仕方がないよね。」
次のトラップを見に行こう。
そんで、これは何だろう。
僕の仕掛けたトラバサミに見事に引っ掛かっているのは、女の子だった。
いやたぶん女の子。
たぶんの理由は、服装。
足下まですっぽり覆うクロークに、頭部を隠したフード。
かろうじて見える足は独特の装飾が施されたブーツ。
気を失っているらしい。
ついでに、彼女の手には動物の骨が握られている。
見たことあれは……ウサギ?
もしかしてこの子が「クルツ自治領のネリス」なのかな?
僕の獲物を泥棒して、なぜか置手紙を残した律儀なネリスさん。
「えっと……大丈夫?」
恐る恐る近づいてフードをはずして顔を覗き込む。
女の子だった。
ついでに言えば、魔物だった。
角のデザインからおそらくサキュバスであると推察される、たぶんこのクロークの下には豊満な体を妖艶にみせる目のやり場に困る服があるのだろう。
で、めちゃくちゃ美人だった。
オレンジ色をした短い髪、健康的な色の肌。
堅く閉ざされた瞳を縁取るまつ毛も絶妙に整った顔も、そのすべてが今まで僕が見てきた人間の美人の何倍も綺麗だった。
「これが……魔物……」
まさに魔性の魅力だった。
はっきり言おう、一目惚れです。
人類の敵だろうが人外だろうが構いません。
「う……ん……?」
魔物の少女がピクリと動いた。
僕はなぜか反射的に後ずさりしていた。
「う……あれ……えっと?」
魔物が目を覚ます。
「あ……、―――――――っ!!」
僕と目があった瞬間に大きく瞳を見開いたかと思うと、トラバサミに足を挟まれたままの状態で逃げ出そうと必死に体をよじり始める。
怯えているというか、パニックになっているというか、
「ちょっと、落ち着いて」
「いやです! 近寄らないでくださいお願いです何でもしますから何もしないで!!」
足から血が出ているにもかかわらず、彼女は必死に僕から逃げようとする。
繰り返しになるがここは反魔物派の土地。
魔物である彼女が人に見つかればどんな扱いを受けるかは想像に難くない。
完全に怯えているところをみると、僕の想像は外れていない。
「もう痛いのは嫌です、嫌なんです!!」
「だから、罠をはずしてあげるから。」
そう言うとやっと彼女は落ち着い
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