第四話

僕がクルツで暮らすようになってから一カ月が過ぎた。
腕は完治して、ランスとクロードさんがみっちり鍛えてくれたおかげで実力もついたし経験も積めたと思う。
そういうわけで、姉さんを迎えに行くことが決定した。
姉さんだけじゃなくて他の仲間たちもできれば連れて帰りたいけど、人数が多いと潜伏も楽じゃなくなるからそこら辺は臨機応変に。
「通行証だ。」
クロードさんがそう言って渡してくれたのは魔力のこもった一枚の木簡。
「これがないと守衛のマリアに性的な意味で食われる。それとこれは通信機として作用するような魔法も仕込んである。」
「そりゃまた便利な……」
王国内でも念話や長距離の情報通信を可能にする魔道具は無いわけではないけれど、こんな携帯サイズでそれを可能にするには複雑な術式と高い知識が必要だったはずだ。
「生産は一日一枚が限界だけど、効果は保障する。」
こんな板っ切れがとは絶対思わない、このクルツの民が全体的にどこかスペックがおかしいのは一カ月も過ごしていれば自然にわかる。
「それと、ルビーがお前に同行してくれるそうだ。」
「え?」
「言ってたの聞いてなかったのか?」
「いえ……本気だと思ってませんでした。」
確かにルビーは「お前は私が守る」だの「私が同行しよう」だの言ってた。
けどまさか何の関係もないのに「半殺しにしたせいで姉と一緒にいられなくしてしまった」なんて責任感だけでそこまでしてくれるなんて思わないだろう。
「あいつも苦労するな……」
クロードさんはどこか遠い目をしてそう言った。
「数日分の食糧とかその他旅に必要そうな道具はランスが用意してくれた、給料から天引きだそうだ。」
「奢ってはくれないんですね……」
「あいつにそれは期待するな。」
クロードさんはまたも遠い目をしていった。
ランスはいい人のようで意外に冷たい、というかやたら現実的というべきか。
クロードさんは顔が厳格そうでかなり怖いし口数もそんなに多い方じゃないけど良い人だってわかる、そういう意味では親子で逆のタイプなんだろう。
「あいつは母親に似たんだ、性格もそのほかも。」
「そうですか……」
ランスの母親ってことはこの人の奥さんだ。けどこの人の妻になれるってどんな人なんだろう、かなり気になる。
一度も会ったことないけど確かにいるんだろうな、クルツのどこかに。
「ルビーが荷物持って城壁で待ってるから行ってやれ。」
「はい。」
言われてすぐに領主館から出る。
そこから城壁へと向かう道すがら、考え事をする。
しばらくルビーと二人旅か。
彼女がこのクルツでどんな仕事をしているのか僕は知らない。
大体の魔物はその適性に合った仕事か、もしくは自分の趣味を仕事にしている。
ツィリアさんとかライアは適性に合った仕事の代表。
ブリジットは趣味の仕事の代表だ。
ネリスやルミネさんはまあ適正だとは思えないけどとりあえずその仕事を自分たちがしなくちゃいけないからしっかりこなしてる感じ。あの二人は魔物の領主一家なんだから例外だよね。
そんなことを考えているうちに城壁にたどりつく。
「改めて見ると、そんなに高くないよね……」
それでも登るのに一晩かかったけど。
この上でルビーと戦い、そして負けた。
「遅い。」
城壁の脇にルビーが座り込んでいる。
その隣には小さなポーチがある、まさかこれが旅の用意じゃないよね?
通行証一個がやっと入りそうな大きさしかしてない。
「いや、クロードさんから旅の注意を受けてて」
「言い訳をするな。」
効果音をつけるなら「ギヌロ」くらいだと思う。
両目から常人なら浴びただけでショック死できそうな殺人光線を放っている。
何でこんなに機嫌悪いかな……待たせちゃダメだった?
「行くぞ。」
ルビーが立ち上がってさっさと歩きだす。
よく見たら僕より背低いんだな、ちょっと意外、いつも上から目線だし。
城壁に入ってほんの少し行くと明るい場所に出た。
「え? 明るい?」
僕とルビーが戦ったのは城壁の上だ。
でもここから上を見上げてみるとそこには空が見える。
「どういうこと?」
「ここは、ルミネさんがわたくしのために作ってくださったちょっと特別な空間なのですよ。」
目の前の水たまりから声がしたかと思ったら、水たまりが形を変える。
さまざまな体つきをした複数人の裸の女性の形になる。
中でもとりわけ豊満な体つきの女性だけが、ティアラのような飾りを頭につけている。
クイーンスライムだ。
「初めまして、クルツの守衛をしております、クイーンスライムのマリアです。」
「初めまして、ロイドと申します。」
「新しい人」「最近人が良く増える」「今度はルビー?」「うらやまし」「どうして中に?」「少し前の戦い……」
背後の集団が何やらこちらをうかがいながらヒソヒソ話をしている。
「マリア、通行証だ。」
ルビー
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