クルツで僕が暮らすようになって十五日。
さすがに元勇者だけあって警戒する人も多いけど、僕ものんびり暮らすことが可能ではある。
腕は完治した、病院のフレッド先生もその回復の速さには驚いた。
どうやら、教会から僕に与えられた祝福の内には自己回復力を高める作用も含まれていたらしい、それに特別製の包帯とフレッド先生の魔術の相乗効果でここまで早く治ったんだろうと推察していた。
けど、十五日も動かせないと悲しいくらいに握力が落ちる。
今まで両手なら振りまわしても息一つ乱れなかったアルマダが、やたら重く感じる。
クロードさんは徐々に取り戻すしかないと言っていたけど、僕としては早く姉さんを迎えに行きたい。そういうわけで、斡旋された仕事の内一番体力を使いそうな南部開発局に回してもらった。
「今日から皆さんと共に働くことになりました、ロイドです。」
「はい拍手。」
棟梁と呼ばれていたのは僕より若い青年だった。
ランスという名前で、クロードさんの三男。
僕より三つ年下、南部開発局で働いている面々の中でも一番若い。
僕のために用意された新品の斧をもらい、木を伐ってみる。
勢いをつけて、一閃。
ガッ
思った以上に頑丈な木だったのか、刃が良く通らない。
もう一回振りかぶり、力いっぱい切りつける。
ガッ
全然切れない……
周囲のみんなの様子を見てみる。
「ほらダニエルそっちに切り倒すな、お前ら倒した木は材木にするんだから丁寧に扱え。」
指示を飛ばしながら自分の担当した木をランスが切りつけている。
しかも、僕より後に始めたはずなのにもうだいぶ切り進んでる。
他のみんなも、僕よりずっと作業は進んでる。
振りかぶって、もう一回切りつける。
ガッ
やっぱり手に強い抵抗が帰ってくるばかりで前に進まない。
「下手。」
「ド下手だにゃ。」
聞きなれない声に振り向くと、すぐそばに灰色の毛をして出るところの出た体つきをしたのと黄毛で凹凸の乏しい体つきをしたのの二人のワーキャットがいた。
二人とも、僕のことを見て下手だと言っているらしい。
「おい……」
ランスが近づいてきた。
「シェンリ、クリム、お前らどうして俺の職場にいる?」
ものすごく機嫌の悪そうな表情で、ランスは二人をにらむ。
「知り合い?」
「「「婚約者」」」
三人が同時に言う。
「誰が誰の?」
「こいつら二人がそれぞれ俺の」
「姉妹ドンブリ」
よく言いたいことが分からない。
姉妹二人がそれぞれ一人の男と婚約?
それって要するに堂々とした二股っていうこと?
「あ〜、そうかあんたクルツの住民になったばっかか、クルツでは重婚や近親婚が法的に認められてるんだ、重婚の場合相手を平等に愛さなかったらそれだけで重罰だけどな。」
ランスがとても面倒くさそうに説明する。
「で、ランスはうちらとちょっと前に婚約した。」
「念願叶ったにゃ、あとは式と子供。」
楽しそうに言う猫姉妹。
「ところでロイド、あんた今までどんな戦い方してたんだ? いくら良い剣使っててもここまで刃物の扱いが下手とか信じられんぞ。」
「え……そんなに下手?」
「うん、刃が立ってないし断面が汚い、下手すぎる。」
ずけずけ強烈なことを言ってくれる。
「力任せに切ればいいってもんじゃないんだよ、それに刃を立てて綺麗に切った方が力の通りもよくなる、こんな…風に!」
カコッ
ほぼ水平に、僕が切り込んでいた個所が大きくへこむ。
斧の性能差ではないだろう、ランスの使っている斧は僕のよりもずっと古い。
刃もあちこち欠けているし、切れ味も相当悪くなっているだろう。
「刃を立てる、力の通りを良くする……」
ためしにやってみる。
ランスと同じような動きで振りかぶり、勢いよく切る。
ガゴッ
全然刃は思い通りに木を伐ってくれない。
「……のんびりやれ……時間はまだ二週間あるんだろ?」
「うんまぁ……」
ランスが呆れている、僕に向けた呆れだとしても気持ちは痛いくらいわかる。
体に染みついた力押しの習性がどうしても前に出てきてしまうんだ。
息を整えて、もう一回。
ガゴッ
うまくいかずにもう一回。
ガゴッ
何度も何度も繰り返す。
僕の練習のついでになるからとランスは切る木を三つ指定してくれて、ついでに薪割りをしてくれと僕に頼んだ。
それが僕に練習台を与えるためなのか、それとも他の目的なのかまでは分らないが。
何のコツもつかめずに三本目を切り倒したころには、夜になっていた。
疲れてその場で横になる。
魔物を倒したくて、殺したくてがむしゃらに剣を振っていた七年前。
今はただ、この土地で生きていくためと、大切な人に会うために鍛えている。
けれども、なぜか今の方がずっと晴れやかな気持ちがする。
「……何をしている?」
頭上で声がした。
起き上がって見てみると、ルビーだった。
この十五日間、ルビーは何度
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