第一話

「クルツ自治領」
そう名乗る、魔物と手を結んだ背信者たちの集団があることを僕が知らされたのは一週間ほど前のことだ。
今までもさんざん魔物をひきいて町を攻撃してきたために教会騎士団が攻撃していたのだが、失敗に終わっていた。しかし最近になっていくつもの町や村がクルツの魔物により壊滅させられ、事態を重くみた王国上層部が今回大規模な討伐作戦を行う次第となった。
王都防衛の目的で駐屯していた王都を出て、僕がその背信者たちの巣窟を壊滅させるための戦いに参加することが上の意向で決定していた。
教会騎士団の大隊五百名と、攻城鎚五機、投石機十両、王国騎士団二百名という大軍団、今までの三百名規模からすると倍の兵力だった。
「敵戦力は城壁の内部で待ち構えるクイーンスライムと、遊撃のために出現するオーガやミノタウロス、人間の混成部隊、そして城壁の上に現れる赤いドラゴンだ。」
作戦の総指揮官マクワイア元帥から僕に下された命令は、そのドラゴンの討伐だった。
「正直なところ、最上位の魔物たるドラゴンとの一騎打ちだ、如何に君が有能な勇者でも、勝算は多くない。」
そうだ、僕は勇者。
クルツに魔物が集まり徒党を組んだ今では、過去の勇者たちのように華々しい功績を上げる機会は乏しく、たまに浄化任務にあたったり辺境の山賊を壊滅させていただけだったが、今回の任務はレベルが違う。


最近滅ぼされた村の近くにある森を抜けると、舗装された山道に出る。
しばらく歩くと、今度は前方にうずたかい城壁が見えて来る。
「これが、クルツを守ってきた城壁ですか……」
「そうだ、中に待ち構えるクイーンスライムや遊撃部隊の手によって今まで何度も教会の信仰を阻んできた忌々しい壁。」
総指揮官であるマクワイア殿の隣で、僕は軍団の最前列を歩いていた。
「いよいよだな。ロイド」
「いよいよですね。」
背中に携えた名剣アルマダを確認する。
王国最上位の鍛冶屋三人がその技術の粋を集めて作り出した無二の名剣。
少し重いから両手でないと満足に扱えないが、強度と切れ味は超一流。
「作戦開始は翌朝だ、第一師団第二師団第三師団は投石機の組み立て、それ以外の部隊は幕舎を立てろ。それとロイド、お前は。」
「分っています。」
僕の任務は全軍の旗印としての役割とドラゴン討伐。
そしてドラゴンが現れるのは城壁の上。
つまり、僕は城壁を上って待機しておかないといけない。
城壁を上って行けるのなら内側への侵入も少数ならできそうだけど、騎士団の大隊が侵入しない限り中から滅ぼすのも無理らしい、前に試したんだそうだ。
ほとんどとっかかりのない城壁に登る唯一のルート、それは岩壁だった。
「一晩かければ……どうにかいけるかな?」


一晩本当にかかった。
朝にはどうにか城壁の上で待機することができたとはいえ、死ぬかと思った。
大きな指令用の太鼓の音が鳴る。
投石機から巨大な岩が十個同時に放たれて、せん滅作戦が始まる。
放たれた大きな岩が、空中で雷に打たれて砕ける。
城壁から敵の指揮官らしい男と、それに率いられた魔物と人間の混成部隊が顔を出す。
数は四十ほど、それが騎士の大部隊と格闘戦を開始する。
先陣を切るのは指揮官とオーガとミノタウロスの三人。
「強い……というか、何なんだあれ……」
三人とも僕より明らかに強い、騎士たちを張りぼてのように叩きのめしている。
「戦見物なら、余所でしろ。」
凛とした声音のその言葉に振り向くと、そこには長い赤い髪に、意志の強そうな赤い瞳をした、露出の多い格好の妙齢の美女が……いや違う、赤い翼と体の各所を覆う鱗がそれが人外であることを物語っている。
彼女がドラゴンだ。
あわてて飛び退くと、アルマダを構えて袈裟がけに切りつける。
ドラゴンはそれを、片腕で受け止めた。
片腕で、剣をつかんだとかそういうのではなく、鱗におおわれた腕で当たり前のように王国一の名剣を防いでいた。
(んなッ!?)
そんなばかげたことがあってたまるかと思ったが、事実こいつは片手で受け止めている。
ゆらりと、ドラゴンの右手が上がる。
危険だと判断してあわてて後ろに引くと、一瞬前まで僕の居た空間を拳が通過していた、
目にもとまらぬ速さで。
「……私と戦うために待っていたのか、律儀なことだ。」
ドラゴンが強い魔物であることは知っていたつもりだった。
けれど、どこかで僕は油断していたんだと思う。
「負けるわけがない」なんて、思ってたんだから。
「ロイド・ストライ、勇者だ! お前に決闘を申し込む!」
それでも、僕は逃げるわけにはいかない。
魔物たちをこの王国にとどめておけば、僕の町のような悲劇がいつ繰り返されるかもわかったものじゃない、だから、クルツは今滅ぼす。
「エルビティステア、見ての通りのドラゴンで、皆ルビーと呼ぶ、その決闘、受けよう。」
ルビ
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