第二話 帰る宛なし

「ごちそうさまでした」
四つあった魚のうち二つを軽く平らげた娘は、そう言ってまた私に向かって頭を下げる。
私も自分の分の魚を食べ終えると、ため息を一つつく。
その場の感情にまかせて助けてしまったが、この娘は紛れもなく魔物だ。魔物を憎む人間ばかりのこの島では助からなかった方がまだましかもしれないし、これで私は裏切り者確定だ。
とりあえず、現在の状況を把握するところから始めると決め、不安げにこちらを伺う娘に向かって
「私はメルフィダ、メルで良い。お前の名前は?」
「イヴの名前はイヴです、イヴ よろしくお願いします。」
私の自己紹介に警戒をやや弱めたのかイヴと名乗った娘はまた私に頭を下げ、ふわりとほほえんでくる。
その美しさに一瞬だけ見とれたものの思い直り、質問を続ける。
「突然だが、どうして海辺に流れ着いたのだ?」
私のこの質問にイヴは少しだけ考えると、彼女の事情を語り出した。
「イヴの部族は決まった居住地を持たず世界各地を定期的に飛び回ります、イヴ達は昨晩は海を渡って北に向かう途中だったんですけど、突然海が荒れ出したので近くの島で休むことに決まりました。
お母さんとお父さん、お姉ちゃん、それに親戚の皆はすぐに島に着いたんですけれど一番子供のイヴは少し遅れて、そのせいで風に流されちゃったんです。
必死で皆の所に行こうとしたんですけどできなくて、気がついたら自分がどこに居るのかもわからなくなって、海に落ちて、」
「そのままこの島に流れ着いたのか。」
恐らく昨日の嵐だろう、魔物がまさか遭難するとは思っていなかったが、この幼さなら仕方がないのかもしれない。
「メルはどうしてこの島に?」
「………私は、私は…罪を犯したのだ。それがやってはならないことだとわかっていながら、他人の罪に荷担した。その咎で、この島に流された。」
償えるものではない大きな罪、多くの人を犠牲にしたし、そんなことをしておきながら最後には自分や親しい仲間の保身のためにそれまで従っていた者達も売り渡した。
結局、軍人としても貴族としても中途半端な愚か者。
他の貴族達がわたしを忌み嫌うのも当然のことだろう、だがそれでよかったのかもしれないとも思ってしまう自分が居る。
「イヴは、メルはそんなに悪い人じゃないと思いますよ。だって、メルはイヴを助けてくれました。」
私の思いを見透かしたかのように、イヴは私の顔を見上げてそう言った。
「……そんなものは思い込みだ。」
純粋なその目を見つめ返すことができず、私はそう言い棄てるとふてくされるように眠りについた。


イヴを拾った次の朝、私はイヴに家から出るなと言っておいたのだが、彼女はそれを完全に無視して私の後を付いてきた。
普通に歩けるほど回復したことを喜んでやるより前に、新しい疑問が湧いてきた。
「イヴ、歩けるのは見て分かるがもう飛ぶこともできるのか?」
「はい、イヴは怪我をしたわけではないから飛ぶのもできます。ほら。」
返事とともに軽く地を蹴り、暗い藍色をした翼を羽ばたかせてその場に滞空する。
「止せ、他の者に見られるのはまずい。」
慌てて止めてから、彼女を隠すように抱き寄せつつ周囲を伺う。
誰も見ていないのを確認して、すぐに彼女から離れる、少々イヴは顔を赤らめているが、恐らく機嫌を損ねてしまったのだろう。
「すまん。だが……この辺りにいる私以外の人間は魔物を酷く嫌っている。危害を加えられる恐れもあるから、見つかるような行動は慎んでくれ。」
「分かりました。」
「それより……飛ぶことが出来るのなら家族の元に戻ったらどうだ? 家族もお前のことを探しているだろう。」
私のその言葉に対して、イヴはなぜか意味が分かっていないような表情を見せて首をかしげる。
こんな幼い少女が親からはぐれて迷子になっているのだ、親が心配しないわけがないと思っていたのだが、彼女にはなぜかそれが分からないようだ。
しかしおぼろげに意味を理解したらしいイヴの口から帰ってきた言葉は、そちらの方が当たり前というものだった。
「自分がどこに居るのかもわからないのに、嵐の中ではぐれた家族をどう探すんですか?」
その言葉でようやく、帰らないのではなく帰れないことを理解出来たのとともに、なぜそこまで平然としていられるのかという疑問も浮かんでいた。
親元から離された子供というものをそこまで多く見聞きしてきたわけではないが、私の知る範囲ではどれも不安と困惑が表情からうかがえた。
しかしイヴにはそれがない、私は魔物に詳しくないのだが、彼女らにとってはそれが普通なのだろうか。
「それにイヴにはメルがいますから。どんなことになっても、メルが一緒なら平気です。」
少し顔を赤らめながらしかし迷いのない笑顔でイヴはそう言いきった。
それは信頼なのだろうか、それとも他の何かなのだろうか、私には
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