第五話

絞り取られる地獄の発情期が最短の三日で終わってくれたのは幸運としか言いようがなかった、その三日間軽く六回は死を覚悟したが。
起きている時間は食事以外ほとんどずっと搾り取られ、どうせ入ってもまたすぐ汚れるだけだからとアレミネルさんたちに風呂に入ることも禁止された。
そんなわけで発情期の終わりには俺たちはもうバブルスライム並みにひどいにおいを漂わせながら、嗅覚がマヒした陶酔状態でやり続けていた。
中に出さなかったことは奇跡と思うしかない。
そこから三日の間は基本的に俺は本を読んで、姉妹はバイトに行っていた。
そして今日。


「えーそれでは、ランスの謹慎期間の終了を祝いまして、乾杯!」
家でパーティが開かれることになった。
参加者は俺と猫姉妹、アレミネルさんルーティさん夫妻に、姉妹の一番の友人であるサキュバスのネリスと、その恋人のテリュン。
それとお祭りお祝い大好きのブリジットに、仕事をロナルドに任せて来るという蛮勇行為をやらかした父さん。
俺はテリュンと会うのは初めてだったが、不思議な男だった。
外界で猟師をやっていたと聞かされているが、それにしては中肉中背で背も普通、そんなに狩りに向いた体格だとは思えない。むしろ今の仕事の方が板についている感じがする。
雰囲気は穏やかで気取らない優等生じみた感じなんだが、うっすらと凡人なら絶対緩まないネジが緩んだようなヤバい奴特有の狂気が感じられる。
確かに、ネリスが気に入りそうなタイプの男ではある。
ロナルドはぱっとしないとか言ってたけど、こいつはむしろ要注意人物だ。
「初めまして、クロードさんとネリスから話は聞いてます、少し前にこのクルツに移住しました。テリュン・マグノースです。」
「ランス・ラギオン。クロードの三男で南部開発局の統括だ、まあ……いわなくても分るよな、謹慎の間代理してくれたそうで、ありがとう。」
とりあえず握手。細くてきれいな指だったが、同時にやたら指を何らかの目的で酷使していたのが分かった、指の皮が固い。
年は俺より一歳上らしい、シェンリとは同い年になるのか。
「その若さであの人たちの統括ってすごいですよね? 僕なんか彼ら相手は全然指示を聞いてくれなくて困ってたのに。」
たぶんこいつの狂気を感じ取れなかったんだろうな。
というか、本人すら自分がネジの緩んだ人種であることを理解してない。
「誰だって最初はそんなもんだ、俺も慣れてもらうまでに一カ月かかったんだから、むしろ一週間で完璧に指示だされたら俺の仕事がなくなっちまう。」
指示を聞かないっていうよりも指示に従えば事故が起きづらいことを理解していないおまけに指示自体の意味をたまに理解できていないのだから仕方ないかもしれない。
「ランスさんの謹慎が終わってよかったです……せっかく同じ職場になれたのにテリュンさんに会えないのは寂しいですから……」
ネリスが笑顔でそんなことを言う、やっぱりロナルドは眼中にないんだな。
「ランスにも婚約者ができ、ハロルドももうすぐ帰ってくる、父親としてこれほど喜ばしいこともない。」
ブリジットの持ってきた強めの酒を飲みながら父さんが言う。
ロナルドの失恋に触れないのはたぶん気を遣ったんだろう。
「ハロルド?」
「クロードさんの長男です、今はクルツの外に出かけてて、もうすぐ帰ってくるって連絡があったみたいなんです。」
テリュンの質問にネリスがすぐ答える。
テリュンとネリスは隣り合って座っている、よく二人だけの会話もしているし、あれぞまさに恋人って感じの二人組だ。
その様子に対抗心でも燃やしたのか、シェンリとクリムが俺を挟むように寄り添ってくる。
「ランス、これ食べるにゃ。」
「お酒、注いであげる。」
二人しての接待。
まあ一応俺が主賓ってことになるから問題ないんだろうけど。
そう言えば、
「お酒って言えば父さんから貰ったあの酒、まだ開けてないんだけど持ってこようか?」
「「やめろ!!」」
父さんとブリジットが声をそろえて俺を怒鳴りつける。
ネリスがおびえてテリュンにすがりつき、シェンリが驚き俺の膝に酒をこぼし、クリムがトリ肉料理を刺していたフォークごと落とす。
俺はというとキョトンとした顔で二人のことを見るしかなかった。
二人は目を泳がせると、
「あれはだな……まあ…寝る前の服用をお勧めする。」
「そうだ、今飲んだらおかしなことになる。」
そうしどろもどろ状態で俺に告げた。
寝る前の服用ってことは薬用酒か何かか?
昔二人とフレッド先生でふざけて飲んだらすぐ眠りについて、一晩とてつもなくいい夢を見れる酒を造ってた記憶がある。結果は成功率五割で失敗するととんでもない悪夢を見るため開発中止だったんだが、あれと同類だろうか。
「さぁさ、宴会再開、オレと飲み比べする奴いねぇか?」
「絶対いやだ。」
「同じく。
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