「頼まれてた留め金? ああ完成してるぞ。ちょっと待ってろ……ほら。」
金属を加工する金槌の音、製錬前の鉄鉱石を鉱山から運んでくるトロッコの音、あとは溶鉱炉の中で鉄が精錬されているのがわかる何とも言いづらい重低音。
そう、ここはクルツの金属加工場だ。
金属加工場と言っても部門が三つに分けられていて、鉱山に直接潜って内部から鉱石を掘り出してくる採掘部門、接客部門がとってきた注文をもとに、金属を精錬しそれを製品に加工する加工部門、そして完成品の引き渡し、注文の受付などを行う接客部門がある。
服屋と違って、結構厳密に専門的に分野が分けられている、人数が多いこともその理由に挙げられるだろう。
そしてその中で加工部門一の腕利きとして名高いのがホブゴブリンのプラムだが、母親を探すための小旅行からクルツに帰ってきたのは昨日の夜のことで、しかも旦那を連れてきた。
金属加工場のアイドルだったプラムを誰も知らないところでいきなり射止めたそいつも加工場の採掘部門で働くことになっているせいで、しばらくは周囲の羨望と嫉妬の目を受けるであろうことは想像に難くない。
「ありがとう、これでようやくレティの首輪を完成させられる。」
「おう、お前も頑張れよ。」
「言われなくても。」
金属加工場を出て、牛の牧場を大回りに迂回して道沿いに移動していく。
金属加工場と農場は水源こそかなり厳重な方法で別にしてあるとはいえ、同様にクルツの東側、生産地区と呼ばれる地域に作られている。
金属の音やら家畜の鳴き声やら、そんな音ばかりが響くのどかないつもの生産地区だ。
あの事件以降、ルミネさんに逆らっても絶対に勝てないと確信したのか造反分子があらかた消されてしまったのかまでは不明だしクロードさん達も教えてはくれないが、クルツは平和なものだ。
この土地らしい穏やかでちょっと間の抜けた空気が帰ってきたと言えばいいんだろうか。
落ち着いて俺もレティからまた毛を採取して、じっくりと完成までプランを練り直し更にいいデザインに仕上げることができた。
幸か不幸か、俺が初めてなめした革も使えるように仕上がってたから店長に無理を言ってそれを使わせてもらった。金属部分を除けば皮革も紡績も裁縫も俺の手で行ったレティのためだけのアクセサリーになる。
「いかんいかん落ち着け、ここで興奮するんじゃない。」
非常に妙なことに俺はどうやら思い人に自分の手がけた衣服やアクセサリーを身に着けてもらうことに興奮する性癖があるらしい、最近とみに実感するようになった。
ともかく、これをすでに出来上がってる他の部分に取り付ければレティの首輪は完成する。
出来上がるまでにずいぶん時間がかかった気はするけれど、それだけの価値がある時間だったと思うし、だからこそ出来上がったこれは大事にしていきたい。
牧場の牛たちがやけにうるさい、今は餌の時間でもないはずなのになんだかそわそわしている、そう思って、俺が首をそっちに向けた瞬間だった。
何か、俺のいる方向に向かって信じがたい勢いで突っ込んでくる。
目を凝らして確認してようやく分かった。牛牧場をその巨体に見合わない機敏な動きで突っ切ってくるのは、レティの愛馬であるヴェガニアだった。
背中には、しっかりレティも乗っている。
高さ二メートルほどもある牧場の柵を当たり前のように大跳躍で飛び越し、レティを乗せたヴェガニアは俺の目の前に着地する。そして次の瞬間にはレティの腕が伸びてきて、信じられない力で俺を抱えあげる。
しかもそのまま(幸いにも牛の間をすり抜けることにはならなかった)ヴェガニアはもう一度道なりに疾走を開始する。
「ちょっ!? おまっ!? うぎゃぁあああああああああああああ!!!」
体の支えと言えば引っ掴まれた胴体のみ、危うい、落下したら痛いどころじゃすまないしサイズが暴れ馬の馬鹿力で有名なポルカに続いてクルツで二番目にでかいヴェガニアに踏まれようものなら人間として並の頑丈さしかない俺は確実に死ぬ。
そして流石、成熟に従ってとうとう走行速度がライアを抜きクルツ最速に躍り出たヴェガニア、かなり速い。あっという間に街中を半分以上も過ぎ、服屋まで到着する。
レティが俺を抱えたまま飛び降り、ヴェガニアは人の邪魔にならないようにか道路のわきに詰める。
「うぉお しぬぅ……」
一方の俺はと言えば揺れるわ意味わからんわで最悪、ゲロ吐きそうな気分だ。
しかしレティはそれも気にした様子はなく俺を道に降ろすと顔を覗き込む。そして尻尾を振り振り期待に満ちた表情で
「首輪、完成? 完成した? つけて、早く。」
とおねだりしてきた、理性が飛んだ目をしている。そりゃそうだ普段理性を保つことをアクセサリのまじないに頼っているクルツの魔物の多くは自分の意思だけで理性を保ち続けることに慣れてない。
俺が服屋で押し倒さ
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