魔王城に向かう道のりにはいくつものパターンが存在する。
すべての道が魔王城に通じるわけではないが、しかし確実に魔王城に向かって侵攻が可能であると言われている道はいくつも存在し、教団の勢力下では「勇者の道」「英雄の足跡」などと呼ばれ、魔物の勢力下では「快楽の道」「魔界化の予定線」と言われる。
多くの勇者がその道を通って魔界に侵入し、そして帰らぬ人となった。
逆に多くの魔物がその道を通って魔界を広げ、魔王勢力の拡大に貢献した。
そんな「勇者の道」から離れた魔界にほど近い森の中。
そこで、女勇者レニー・スティルバーグとその従者アル・ワイルダーは野営していた。
村人が見かけた「黒い球状の奇怪な魔物」を討伐するために、旅を一時断念してこの森で捜索を開始したのだ。
「見つからなかったな。」
「そうね……いる気配はあるんだけど……」
アルの言葉にレニーが答える、周囲から感じられる強い魔物の気配から近くにいることは間違いないはずだが、二人が一日探しても影も形も見つけられなかった。
レニーは膝を抱えて座り込んだまま、足元の剣を足先でつついている。
「不安なのか?」
「まさか、あんたこそ怖いの?」
アルの質問を即否定し、逆に質問を返す、彼女に元気がないときにはアルはたいてい似たような質問をする。そうすると彼女は少し強がって、そしてその強がりを本音に変える。
「怖くはないけど、何か嫌な予感がする。」
「怖いんじゃない、正直に頼っていいのよあんたより強いこの私に。」
レニーは胸を張りながら冗談のようにそう口にする、確かにレニーはアルよりも強い、だからこそ彼女が勇者で彼が従者になっているのだ。
二人は同じ勇者養成機関の出身だった。
そしてレニーはその首席、アルは僅差でそれに次いで次席。二人とも今までに養成機関が輩出したどんな勇者よりも優秀な成績を叩きだしたために最も戦果を挙げる勇者として、それどころか世界を救い得る逸材として期待されていた。
しかし、そんな「期待の逸材」を面白く思わないものは少なくない。
彼女はとにかく強い、次席のアルがどうにか相手になる程度で、他の有象無象とは次元が違いすぎ、組手練習の時にはほとんどアルがつきっきりで相手をしているか、そうでなければ彼女は訓練場の隅で素振りをしていた。
彼女に比べて実力の大きく劣る他の候補生たちと深く交流してもお互い得られるものが少ないからこそとっていた行動だったのだが、同輩たちにはそれが面白くない。
さらに言えばアルと試合をした場合には下手をすれば指導者たちよりもずっと的を射た、しかもその上で理解しやすい指導をしてもらえるためアルは他の候補生から人気者だったのだから余計にレニーは周囲から嫌われる。
ほとんどの候補生たちは彼女を無視し、そして嫌がらせを繰り返すようになった。部屋にいない隙に服を破り、共同訓練ではわざと彼女が余るように集団で組み分けを操作する。
「レニー、もう寝ろ。俺は見張りしておくから。」
険しい顔になっていたレニーに向けて、アルはそう声をかける。
手元に大きなハルバードを用意して、いつでも戦えるようにしてある。
「変なことしないでよ?」
「しねーよ。」
冗談に即答するのもどうかと思う、しかしその気がないことはレニーも重々承知していた、宿に泊まっているとき以外いつもアルが見張りをしているのだからする気があれば今までも何度だってその機会はあったのだ。
「お休み。」
女性として望ましい性質と言えるのか微妙なところだが、レニーはどんな場所でも短時間で眠りにつく能力がある、どれだけ物音が煩かろうがどんなに明るかろうが関係ない。
眼を閉じて数秒で、レニーは寝息を立てはじめる。
そんな彼女の寝顔を、アルは優しい笑顔で見守っていた。
『本当むかつくよな』『強いだけじゃねーか』『アルが味方してなかったら俺たちで潰してやるのによ』『あんな奴勇者の器じゃねーよ』『何様のつもりだよ』『服破れたのぉ? だっさーいキャハハハハ』『さっさと魔界に特攻して死んでくれないかな。』『アル君とベタベタしやがって腐れビッチが』
声が聞こえる。レニーに嫌がらせをしてきた多くの同輩たちの声だ。嫌がらせをして、へらへら笑っていた彼女の敵たちの声だ。
誰よりも強い勇者になるために人一倍努力して、自分の幸せだって捨ててきた。
本当は恋もしたかったし、他の誰かと仲良くもなりたかった。
けれどもそれが強くなることへの足かせになるんじゃないか、自分を弱くすることにつながるのではないかと必死に耐えていた。
他人との交流だって避けて、ひたすらに自分を鍛えて、剣術しかとりえのなかった自分に期待してくれた人に、勇者になろうとする自分を応援してくれた人に、孤児だった自分を育ててくれた人に報いようとした。
どれだけ疎まれようが、どれだけ嫌がらせをさ
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