森の中をゆっくりと走る一台の馬車。
その中に乗った、傭兵ギルド所属の傭兵剣士ヴェンスと、彼の相棒である魔術師ティナは、とある依頼を遂行するためにこの馬車に目的地の近くまで乗せてもらっていた。
ヴェンスは背は普通、体の肉付きもそこまでよくはなく、どちらかと言えば細い。紺に近い青い髪に、黒曜石のような瞳をした若い男だ。
一方のティナはまだ少女と言っていい若い女性で、短いが見事な金髪とエメラルド色に輝く大きな瞳、そして同年代の女性と比較して少し小さな身長が特徴だった。
目的地は街道外れにある古城、その中にワーバットの群れが巣食い、夜になると男を襲いに集団で街道付近に出没することから最近ギルドに依頼が来ていたのだ。
ワーバットは対処の難しい魔物ではなく、光を浴びせられれば途端に臆病になって戦意を喪失することから群れでもそこまで討伐難度の高い魔物ではない。
時間帯は夕方、あと一時間とせず日が沈むだろう、そうなればワーバットたちの活動が始まる。
「ここでいい、ああ馬は止めなくていいよ。」
そう言ってヴェンスは立ち上がると、ティナを抱きかかえて馬車から飛び降りた。
ヴェンスが先に歩き出し、ティナがヴェンスの背後に隠れるように動く。彼女もまた、戦いが起きなければいいと思っているはずだ。
日が暮れる前にたどり着かないと見通しの悪い森の中でワーバットの群れに対抗しなくてはならず危険なので、二人は急いで歩を進めた。誰かが先に進んでいた気配はないが、なぜか出来上がっていた獣道を通り古城に向かう。
「門が開いてるな、わざわざ開け放つ意味もなさそうなのに。」
開け放たれた門を見てヴェンスはそう呟いた、ワーバットなら飛んで抜け出せばいいのでわざと門を開けておくことにメリットはない。誘われていると判断するのが妥当だ。
門から城の中に入ると、エントランスでは天井に向かって伸びる柱の合間を縫うようにたくさんの足場が設置されていた、ここで侵入者を迎え撃つようだ。
「敵襲! 敵襲だ!!」
ヴェンスたちに気付いたワーバットの一人が大声をあげると、エントランスにいたワーバットだけではなく城の奥からも次々とワーバットが姿を現した。
バサバサと音を立ててたくさんのワーバットが天井近くまで舞い上がる。
「男だ! 久しぶりにまともそうな男が来たぞ!」「女はつまみ出せ! 私たちには男だけでいい!」「「誰が貰う!?」「「早い者勝ち!!」」
話が決まると、ワーバットたちは次々ヴェンスに向かって上から強襲を試みる。
しかしヴェンスとて、それを想定していないはずがない。
急降下してきたワーバットの腹めがけ、強烈なカウンターの峰打ちを叩き込む。
「あぐぅっ!!?」
悲鳴とともにワーバットは吹っ飛び、味方数人を巻き込んで地面に落下した。
そしてティナも、魔法を発動して周囲を照らし戦意を喪失させに行く。
「うわぁっ!!?」
ワーバットも光に照らされそうになると急いで退避するが光が消えるとすぐにまた向かってくるのであまり効果はなさそうに見える。とはいえ、ワーバットたちも手をこまねいているようで、ヴェンスはこれはチャンスかと判断した、
「俺たちはあんたらに危害を加えに来たんじゃない! ただ街道を行く行商人を片っ端から襲うのをやめてほしい! 物流止まって大変なんだよ!」
「知るかよ!」「じゃあ婿寄越せ!」「って言うか婿になれ!!」
ヴェンスの説得に対してワーバットの返事は非常にわかりやすい拒否だった。
仕方ないので物理的説得を試みることにしたヴェンスは、ティナの作った光源の範囲から出て、襲いかかろうとしてくるワーバットたちを正確に落としていく。
「大牙様を呼べ! 私たちじゃ手におえない!」
「オオキバ様? こいつらの群れのリーダーか?」
光を逃れて物陰に隠れながらもそう何処かのワーバットが指示を出した。その内容が気になったのでヴェンスは訊ねてみたのだが、返事はない。
「もう来ている、私の部下が世話になったようだな。」
そんな声に、エントランスにいた誰もが注目した、声の主は空中に浮かぶ椅子に座って足を組んでいた、その女性を見た瞬間にヴェンスとティナは凍りついた。
艶めくブロンドの髪、蝶のような薄紅色の装飾の施された豪奢なドレス、そして女性から感じられる強大な魔力。その女性は間違いなく
「………ヴァンパイア…?」
「大牙様!」「いらっしゃったのですか!?」「誰が呼んできたんだ? 寝てる時間なのに。」「なんでヴァンパイアがワーバットを率いてるんだよ……」
ヴェンスの意見ももっとも、夜行性以外に共通点がほとんどない二種がまさか同行しているなどとは考える人間はほとんどいない。
「利害が一致したので統率しているだけだ、おかげで助かっている。」
瞬時にヴェンスは跳躍して本気で切り付けたが、出現した黒い糸状の何かが
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